社説

[消費減税の是非]各党は負の面も明確に

2025年5月17日 付

 消費税減税の是非が、夏の参院選の争点に浮上している。石破茂首相が減税を見送る方向で調整に入った一方、野党各党は公約に盛り込む見通しだ。
 終わりの見えない物価高の中、家計の負担を減らす政策への国民の期待は高い。幅広い人が恩恵を受ける消費税減税を行わないならば、ほかにどんな経済対策があるのか。一方、減税で社会保障の重要な財源にあく穴をどう埋めるか。各党の主張には重要な論点がある。
 国民の暮らしを守ることと、持続可能な社会保障制度を将来に引き継ぐことに軽重はない。各党は、政策の負の面も明確に示した上で、責任ある議論を進めなければならない。
 消費税の税収は年金、介護、医療、子育て支援などに充てられている。2024年度は税収30兆円超が見込まれ、うち20兆円程度が使われる。残りは自治体の行政サービスに回される。
 首相が見送りを決めたのは、これらに代わる新たな財源の確保が困難と判断したためだ。一貫して減税に否定的だった自民党の森山裕幹事長ら党幹部への配慮もあったとみられる。財政規律を重んじる「責任政党」としての姿勢を示したという点では理解できる。
 ただ参院選の目玉政策を求める自民内には不満が根強い。連立を組む公明党も消費税減税を選択肢としており、足並みがそろっているとは言い難い。今後の調整に手間取れば、首相の指導力に疑問符が付くのは間違いない。
 立憲民主党は、1年間に限り食料品の消費税率を0%とする案を打ち出した。来年4月に開始し、経済情勢によって1回延長できる仕組みである。税収減は年約5兆円と見込まれる。当初財源を示していなかった野田佳彦代表は昨日、国の基金の取り崩しなどで捻出する考えを表明した。
 日本維新の会は2年間の食料品税率0%、国民民主党が時限的な一律5%への引き下げを主張。共産党やれいわ新選組も消費税減税や廃止を訴える。
 消費税の負担感が大きいとされる所得の低い人ほど減税の実感を受けやすく、実現すればメリットがある。日々の食料品の支払額が目に見えて下がるのは物価対策としても分かりやすい。
 問題は一度下げた税率を短期間で元に戻すのは政治的に容易でない点だ。期間延長を余儀なくされた場合、赤字国債に頼ることにならないか。借金が1300兆円を超す国の財政の健全化が遅れればツケは将来世代に回る。
 財源不足で社会保障サービスが低下し、弱い立場の人にしわ寄せがいくのも避けねばならない。ただ、だからと言って消費税減税の議論を閉ざしてはいけない。自民が阻んできた法人税や金融所得課税の負担増とセットで税制のゆがみを是正し、社会保障費など歳出抑制に本腰を入れることが肝心だ。

日間ランキング >