国の特別機関である日本学術会議を特殊法人にする法案が衆院を通過した。月内にも参院で審議が始まる。
2020年に菅義偉首相(当時)が会員候補6人の任命を拒否したことを発端とする組織見直しだが、「論点のすり替え」との批判は免れまい。
学術会議側は独立性や自律性が損なわれる恐れがあるとして法案再検討を求めた。しかし政府は無修正で乗り切る構えで、政治介入の懸念は拭えない。廃案も視野に慎重な審議を望む。
今回の法案は首相による新会員任命をやめる一方、業務をチェックする監事や、活動を評価する委員会の委員を首相が任命する内容だ。新会員の選定時には外部有識者でつくる選定助言委員会が意見を述べる。管理が強まり、学問の自由が脅かされかねない。学術会議側が警戒するのは当然である。
政府は年10億円前後を予算化してきたが、法人化後は「必要な金額を補助する」としている。これでは財政基盤が政権の意向に左右される恐れがある。現行法でうたわれている「平和」「独立」といった言葉が条文から消えることも懸念材料だ。
法案に賛成する与党や日本維新の会からは「(会議に)公金を使う以上、政府介入は当然だ」との声がある。一方、反対する立憲民主党は「排除したい学者が選別され、任命拒否と同じことが行われる」と指摘。参院審議に向け、会議の独立性を明記した修正案を提出する予定だ。
学術会議は1949年に設立された。日本の文系・理系の科学者を代表する組織である。中立的な立場で政府へ政策を提言するほか、科学の普及、国際的な学術交流にも取り組む。
兵器研究などで戦争に加担した反省もあり、軍事研究に対して慎重姿勢を示してきた。2017年には軍事応用が可能な基礎研究に対する防衛省の助成制度を批判した。菅首相(当時)が新会員候補のうち、安全保障関連法などに反対した法学者ら6人の任命を拒否したのは、その3年後である。
任命が見送られたのは初めて。過去の国会答弁では「政府は形式的任命を行うに過ぎず、拒否しない」としていた。政府は運用を変えた経緯や理由を明らかにしていない。
16日には、一連の過程に関わる文書を国が黒塗りで開示したのは違法だと東京地裁が判断した。全面開示されないと審議できないとの声も強まる。
太平洋の向こうでは米政権が、反ユダヤ主義を助長したなどとして、意向に沿わない大学へ補助金凍結や留学生受け入れ資格取り消しで圧力をかけている。法案がそのまま通ったら同様のことが日本でも起こりかねない。
学問の自由を脅かさないために、政治と学術は一定の距離を保たなければならない。