小泉進次郎農相は、政府備蓄米の店頭価格を5キロ当たり2000円程度にする新たな高騰対策を打ち出した。集荷や卸売りの業者を通さず、随意契約で小売業者に直接放出する「官製値下げ」ともいえる仕組みで、国民の不満解消を狙う。
コメの品薄は半年以上続き、直近の12~18日に販売された5キロの平均価格は4285円と2週連続過去最高値を更新した。前農相の江藤拓氏がコメを巡る失言で更迭され、農政への不信は高まっている。後手に回ってきたコメ政策の転換点となるだろうか。
随意契約は業者の選定が恣意(しい)的で不透明となる懸念も拭えない。公平性を保ち、恩恵を受ける事業者や消費者が偏らないよう努めてもらいたい。
新方式は2022年と21年産の古いコメが対象となる。契約先は年間1万トン以上を扱う大手に絞り、売却価格を入札方式の半額程度に抑える。来月初旬にも店頭に並ぶ見込みだ。
これまでは政府が原則とする競争入札に参加できるのは、コメを農家から集めて卸売業者に売り渡す大規模な集荷業者に限られていた。3回の入札によって計31万2000トンが放出されたが、価格低下の効果は乏しい。
流通の目詰まりが背景だ。9割超を全国農業協同組合連合会(JA全農)が購入。引き取った卸売業者の精米や輸送が追いつかず、放出から1カ月半近くたった4月下旬時点で、店頭に届いたのは全体の7%に過ぎなかった。
解消に向けた対策として国は今回、なりふり構わず安値での随意契約や輸送費負担などの「禁じ手」に踏み込んだ。安く速やかな供給に期待がかかる。ただブランド米の販売価格は高止まりしている。備蓄米の放出量には限りがあり、全体の価格をどれだけ下げられるかは不透明といえる。
随意契約は大手のみが対象となるため、当初の流通先は都市部などに限られる可能性がある。中小の小売店からは「大手に客が流れる」と不安が漏れるのも当然だろう。政府は取扱量の条件見直しなど、買いたい人に広く行き渡る態勢づくりを急いでほしい。
国の介入による値下げに批判的な声も上がる。コメの価格は基本的に需要と供給で決まる。市場の機能を損なうようなことは避けなくてはなるまい。いつまで介入するか出口対策を明確にすることが必要だ。
緊急避難的な備蓄米値下げ策だが、長らく米価の低迷に苦しんできた農家からすると、安さだけが注目されるのは複雑だろう。安定的に生産するには店頭価格が5キロ3000円以上必要との見方がある。
生産調整や転作奨励を軸としてきた農業政策を見直し、安心してコメを作り続けられる価格形成の仕組みにつなげたい。