社説

[オスプレイ移駐]住民の不安は尽きない

2025年6月3日 付

 陸上自衛隊が保有する米国製輸送機V22オスプレイを巡り、政府は7月9日に佐賀駐屯地(仮称、佐賀市)を開設し、機体の配備を始める。暫定配備している千葉県の木更津駐屯地から全17機を8月中旬までに移す。運用には隣接する佐賀空港の滑走路を使う。
 トラブルが相次ぐ機体である。運用自体が妥当なのか、疑問は拭えない。
 7月まで5年間の暫定配備先とされた木更津も、米軍と陸自の定期整備拠点として周辺での飛行が続くという。鹿屋市の海上自衛隊鹿屋航空基地では4月、初めて1機が訓練した。佐賀への移駐後は、飛来が日常化するのではないか。住民の不安は尽きない。政府はそれぞれの地元と誠実に向き合い説明を尽くすべきだ。
 オスプレイは、九州・沖縄の防衛力を高める「南西シフト」の主力装備と位置付けられ、長崎県の相浦(あいのうら)駐屯地に本部を置く離島防衛専門部隊「水陸機動団」の輸送を担う。
 ヘリコプターのような回転翼機と固定翼機の特徴を併せ持つ。滑走路がなくても運用可能で航続距離が長く、災害救援や急患搬送にも役立つとの触れ込みだ。米軍は2007年に実戦配備、陸自は20年に導入した。
 だが運用開始後、事故が頻発している。最近では23年11月に米空軍機が屋久島沖で墜落して8人が死亡。陸自機も昨年10月、与那国駐屯地(沖縄県)で損傷事故を起こした。県内では奄美群島の民間空港に米軍機の緊急着陸が度々発生。陸自のV22は昨秋、鹿屋基地へ緊急着陸した。
 昨年12月には安全確認の措置のため米軍が運用を一時停止、陸自機も飛行を見合わせた。変速機の故障が多く報告される。構造的欠陥も指摘されており、確認作業が必要だ。
 日本政府は過去の機体トラブルの際に米国任せの対応が目立ち、再発防止に主体性を発揮していない。安全への責任を果たさないようでは、国民の不安が払拭されるはずがない。
 佐賀空港は軍民共用となり、心配する利用者や騒音を気にする住民がいる。佐賀駐屯地を巡っては有明海のノリ養殖への影響を危ぶむ声があり、漁師らが建設工事の差し止めを求める仮処分を申し立てて係争中だ。
 防衛省の情報公開の姿勢も問われる。木更津駐屯地に定期整備拠点が残ることに十分な説明がなかったとして、「だまされた」と憤る住民もいる。対話をおざなりにすれば基地強化に対する警戒が高まるだけだ。
 今年3月に大分県の湯布院駐屯地に地対艦ミサイル部隊が発足。宮崎県の航空自衛隊新田原基地にはF35Bステルス戦闘機が年度内配備される。暮らしへの影響は増す。自衛隊の配置は状況次第で、攻撃目標となるリスクをはらむ。慎重な運用を求める。

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