社説

[口永良部10年]離島の噴火に備えを

2025年6月6日 付

 もくもくと湧き上がった巨大な塊が木々をなぎ倒しながら麓に向かってきた。集落の寸前まで焼き尽くした火砕流の猛威に震え上がった住民は「生きた心地がしなかった」と振り返る。

 屋久島町・口永良部島の爆発的噴火と全島避難から10年がたった。犠牲者は出なかったが、当時の紙面からは逃げ場のない離島火山の恐ろしさが伝わる。

 町は節目の今年、噴火した5月29日を「屋久島町防災の日」と定めた。26の集落ごとに訓練実施を呼びかけ、住民の防災意識を高めるのが狙いだ。火山と共存する他の地域でも噴火への備えを進めてほしい。

 口永良部島の現在の噴火警戒レベルは2(火口周辺規制)。当時9000メートルを超える噴煙を上げた新岳(626メートル)ではなく、南側に近接する古岳(657メートル)火口付近の浅い所でやや活発な地震活動が続いている。

 2015年の噴火では、気象庁が全国で初めて警戒レベルを最高の5(避難)に引き上げ、町が全島避難を指示した。住民ら137人が町営船や海上保安庁の巡視船で屋久島に渡った。島外避難は一部地区を除き同年12月まで約7カ月続いた。

 翌年、気象庁が屋久島町役場内に火山防災連絡所を設置し、職員2人が月2回の現地調査を続けている。町などは新岳火口から北西4.5キロにある高台の番屋ケ峰避難所を改築し、砂防ダムやヘリポートを整備した。

 島の人口は約3分の2に減り、全島避難の経験者の方が少なくなるほど人が入れ替わった。教訓の風化が懸念される。

 島民の大半が住む本村集落は先月、地元主体の防災訓練を初めて実施し、避難誘導や情報伝達、安否確認の課題を洗い出した。町が立ち上げる災害対策本部では、区長が島の現地本部長を務め、駐在する町職員がその下につく。地元重視の姿勢は他の地域の参考になりそうだ。

 県内11活火山のうち口永良部島、諏訪之瀬島、薩摩硫黄島、口之島、中之島は離島だ。桜島や霧島のように全方位から監視する体制にはなく、観測強化や予報技術の向上が求められる。

 どの活火山も火砕流が発生する可能性がある。高温のガスや火山灰が時速100キロ以上の速さで山を駆け下る現象である。巻き込まれれば逃げ切れない。噴石の飛散にも注意が必要だ。

 小まめな火山情報の確認はもちろん、異変を感じたら安全な場所に素早く避難する準備と心構えも忘れてはいけない。

日間ランキング >