社説

[山形屋再建1年]もてなしの力磨く好機

2025年6月15日 付

 鹿児島市の山形屋が私的整理の一種「事業再生ADR」による経営再建に着手して5月末で1年過ぎた。資産売却に向けた準備やグループ再編を進めつつ、好調な催事や訪日客需要もあって2025年2月期決算(単独)は2年続けて営業黒字を確保した。
 山形屋は市中心部や天文館地区の核となる商業施設で、県経済界を主導する存在でもある。「初年度は順調に再生計画を進められた」とする岩元修士社長の言葉に、安堵(あんど)した関係者は少なくないだろう。
 これまでにサテライトショップや山形屋ストアの一部店舗を閉め、卸売業の山形屋商事と市内の朝日通り立体駐車場の営業終了を発表した。先日の株主総会後には山形屋情報物流センターの売却意向も示された。
 いずれも売却額が注目される。物流センターはJR鹿児島中央駅から2キロ圏内の文教地区にあり資産価値も高い。計画の中では最後の大型物件となる見通しだ。
 組織再編では、持ち株会社の山形屋ホールディングス(HD)を発足させ、24のグループ会社を15社に集約した。経営陣にはメインバンクの鹿児島銀行などから人材を迎えた。店舗改革として、本店2号館5階には家電量販店の「エディオン」、文具専門店の「丸善」をテナントとして招き、サービスの専門性と収益の向上を図った。
 一方、大幅な人員削減や給与カットをせずに、5年間で360億円の負債を返済する計画に対しては、今も専門家や金融関係者から実効性やスピード感を問う声が聞かれる。ADRの性格上、水面下での調整が基本となる点は理解するものの、地域や県民の応援が続いてこその再建だ。必要に応じた説明や情報発信が欲しい。
 今春、組織改編で設置した業務改革本部は、グループ1400人を超す従業員のうち正社員約480人を対象に聞き取りをした。再建に入ってから初の試みで4月までに全員が参加した。
 聞き取りを通し「会社側に変わろうとする意識を感じる」「社員が想像以上に会社のことを考えてくれている」と労使が互いの姿勢を評価していることが分かったという。現場の意見が売り場に反映される機会になればいい。
 先日の「初夏の北海道物産展」は過去最高の売り上げだった。県民のエールがこもっていると考えれば、従業員には何よりの励ましとなるはずだ。
 「再建と無関係」(山形屋)とはいえ、紙袋の有料化、友の会商品券や従業員制服の廃止、一部テナントやブランド撤退と目に見えて変化している現実もある。
 インターネットや通信販売が幅を利かせる中、百貨店としては対面販売のよさを再認識させ、もてなしの力を地道に極めていくしかないだろう。

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