社説

[作況指数廃止]正確な収量把握なるか

2025年6月18日 付

 農林水産省は、コメ(水稲)の出来具合を示す「作況指数」を廃止する。過去30年の傾向との比較で指数を算定してきたが、近年は気候変動などの影響で実態と合わなくなっていることが理由という。
 コメの生産を巡って、農水省は2024年産の作況指数は「平年並み」で生産量は足りていると説明していた。しかし農家などの実感は違い、実際には量が少ないとの声が多かった。この認識のずれが備蓄米放出の判断を遅らせ、コメ価格高騰の一因になったとの批判がある。
 統計の見直しを機に、農水省は収穫量の正確な把握に努め、中長期の価格安定につなげる責務がある。
 作況指数の公表は1956年に始まり、豊作や不作を分かりやすく示す指標として活用されてきた。水田10アール当たりの玄米の収量を推計する。
 指数の正確性に影響を与えているのが温暖化だ。これまでの不作の原因は冷害がほとんどだったが猛暑に変化した。品質の落ちた米粒が増え、精米すると量が減りやすくなっている。農家や流通業者からはこうした訴えが相次いでいたにもかかわらず、農水省が現状をどう把握していたか疑問が残る。
 あくまで単位面積当たりのデータである作況指数が、流通や生産現場から全体の収穫量と受け止められることが多かったとの見方もある。ただ農水省自体が指数を根拠の一つとして、24年産を「平年並み」とすることに問題はないとの立場だった。見通しの甘さを指摘されても仕方あるまい。
 現場の実感との乖離(かいり)を踏まえ、コメの出来を「良」「不良」などの表現で示す「作柄」は今後、前年との比較で示すよう改める。
 作況指数とともに公表している予想収穫量調査は継続。農機や人工衛星のデータ、人工知能(AI)などデジタル技術を活用し精度を高める方針だ。従来は主食に回る玄米を1.7ミリのふるいにかけて収量を調べていたが、生産者が使う1.8~1.9ミリのより目が粗い大きさに変更する。流通実態に近づける狙いがある。
 小泉進次郎農相はさらに、コメの販売や出荷を担う約7万の事業者に在庫などの報告を求める方針も示した。これらの取り組みで、コメの品薄と価格高騰の原因解明を進めてもらいたい。
 コメの店頭価格は3週連続下がった。随意契約による備蓄米の大量放出など、農相が就任後に矢継ぎ早に打ち出している政策の影響と言えよう。
 70年続いた作況指数の突然の廃止はこの延長線上にある。だが、専門家からは「過去のデータとの連続性がなくなるデメリットもある」との指摘も出ている。指数は市場価格の目安となっていただけに、生産・流通の現場に混乱を招かないかなど注視が必要だ。

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