カナダで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)が閉幕した。国際情勢や経済などに関する包括的な首脳宣言を取りまとめるのが慣例だが、今回、18年ぶりに見送った。
1975年の初開催から半世紀。世界が混迷する今こそ、未来への指針が求められている。だが米国第一主義を掲げるトランプ米大統領に配慮し、決裂を避けるため、山積みの重要課題に正面から向き合おうとしなかった。
国際社会の平和と自由を先導してきたG7の存在意義が問われている。
2日間の日程で16日に始まったサミットは、波乱の幕開けだった。イスラエルによるイランの核施設攻撃という中東情勢の緊迫化への対応を理由に、トランプ氏は初日夜に途中離脱した。
その結果、ロシアのウクライナ侵攻を巡る協議は、停戦交渉仲介を担うトランプ氏不在の中で行われた。結束して対ロ圧力を強めるつもりの欧州首脳の思惑は外れる。ウクライナ情勢に関する共同声明も、ロシア非難の強い文言に米国が異を唱えて出せなかった。
それどころかトランプ氏は、サミット開幕直前に議長国カナダの首相と会談した際、日米など7カ国にロシアを加えたG8の枠組みからロシアが2014年に排除されたことを批判。とどまっていれば侵攻は起きなかったとの持論を展開しロシア寄りの姿勢をあらわにした。トランプ氏には大国外交の責任を改めて認識させるべきだった。
米国との溝はイスラエルとイランの応酬でも浮き彫りに。「イランはテロの源だ」などの文言を入れた共同声明を発表したが、当初カナダは交戦国双方に自制を求めるメッセージを目指していた。最終的にイスラエル側に立つ米国に譲歩したとみられる。核関連施設への攻撃黙認は残念でならない。
今回のサミットは包括的な首脳宣言の代わりに、人工知能(AI)技術活用や重要鉱物のサプライチェーン(供給網)強化、山火事対応など個別課題に関する六つの共同声明、行動計画をまとめた。意見対立が少なく、米国が受け入れやすい個別課題に絞って結束を演出したと見え、形骸化を物語る。
中国やインドの台頭でG7の国内総生産(GDP)の合計が世界に占める割合は低下し、影響力減少が指摘される。ただ、核軍縮から人権、テロリズム、気候変動などさまざまな課題に協調対応し、国際社会の求心力をつくりだしてきた。その役割を再確認し、立て直しに取り組むべきだ。
アジアから唯一参加の日本は、欧米の橋渡し役を自任する。しかし石破茂首相が今回、中東情勢や自由貿易体制に関する議論で主体性を発揮したとは言いがたい。米国との関税交渉への影響を懸念したのかもしれないが、首脳外交の重要舞台で日本の立場を明確に主張するのが責務ではないか。