攻撃の応酬を続けていたイスラエルとイランが「停戦」に合意した。トランプ米大統領が交流サイト(SNS)で発表し、日本時間25日夕の段階でおおむね維持されている。
第5次中東戦争の引き金となる恐れがあった地域大国同士の衝突が沈静化したことをひとまず歓迎したい。
だがイランは核開発を放棄しておらず、イスラエルは脅威を取り除くためにイランの体制転換を望み続けることは間違いない。対立の根本原因が残る薄氷の合意に過ぎない。
両国には合意の着実な履行を求める。その上で、中東情勢全体の緊張緩和を目指す一歩としてもらいたい。
核施設を米国に攻撃されたイランは、報復のため、トランプ氏の合意発表直前にカタールにある米軍基地に向けミサイルを発射した。しかし事前に米側に通告する抑制的なもので、人的被害もなかった。これを機に停戦合意を探る動きは加速した。
イスラエルはイランの核開発に大きな打撃を与える成果を獲得。終始劣勢のイランは最重要視するイスラム革命体制存続を優先した。トランプ氏にとって中東の戦火への関与が長引くことは、一部支持層の離反を招く懸念があった。三者の思惑が一致したことが早期の幕引きを図った理由だろう。
合意後にイランのペゼシュキアン大統領と、イスラエルのネタニヤフ首相の双方が「歴史的勝利」を誇示した。ただ少なくともイラン側で606人、イスラエル側は24人が死亡し、双方のインフラ施設に多大な被害が出た。交戦による傷は深いと言わざるを得ない。
この犠牲に加え、国際ルールを根底から揺るがしたイスラエルと米国は、責任を問われなければならない。
核関連施設を標的に先制攻撃したイスラエルの非は明らかだ。米国はイランから差し迫った軍事的脅威を受けていないのに加担した。国連憲章が禁じる「武力による威嚇または武力の行使」にほかならず、力ずくで他国の主権を侵害した事実は重い。国連安保理常任理事国の立場を放棄したに等しい。
もちろん重要なのは停戦の継続である。三カ国に加え、欧州や日本が関与した監視体制の構築が急務だ。
米とイランの核協議も早期に再開すべきだ。中長期的には核開発を抑止する枠組みの再立ち上げが必要だろう。イラン側は危機再来を回避したければ、国際原子力機関(IAEA)の核査察受け入れを拒んではならない。
中東不安定化の根源となっているパレスチナ自治区ガザの問題解決も急がれる。住民には、イランと停戦合意したイスラエルが攻撃を激化させるとの不安が広がっている。大幅な物資搬入制限で人道危機は深刻だ。国際社会はガザの戦闘も止めるようイスラエルに圧力をかけるべきだ。