1945年6月26日、第2次大戦さなかの米サンフランシスコに50カ国の代表が集まって開かれた連合国会議で、国際連合の設立をうたった国連憲章が調印された。同年10月に発効する。
人類が言語に絶する悲哀を味わった二つの大戦を踏まえ、憲章前文は「戦争の惨害から将来の世代を救い」「国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ」ることを誓った。
ところが80年後の今日、国連の機能不全は深刻さを増している。「平和の番人」を期待される国連安全保障理事会の常任理事国(米英仏ロ中)自ら国際法を破り、平和を脅かす動きを止められない。国連は改めて原点に返り、力ではなく法が支配する国際秩序づくりへの取り組みを急がねばならない。
国連憲章は、国家による武力行使を原則禁じる。ただ、自衛権はその例外として認められる。
2022年2月からのロシアのウクライナ侵攻も、23年10月のイスラム組織ハマスによる襲撃から始まったイスラエルのパレスチナ自治区ガザ侵攻も、自衛権を根拠としてなされた。世界には失望感が広がる。
特にウクライナ侵攻では、安保理(15カ国)の中核メンバーである常任理事国の一角を占めるロシアが、侵攻直後に採決された自らへの非難決議案を「拒否権」を行使して葬った。
安保理決議案への拒否権は、5常任理事国のみが持つ。1カ国でも行使して反対票を投じれば採択されない。第2次大戦後、世界平和の維持には大国が協調して行動することが必要、との「大国一致の原則」から設けられた。
だが大国が紛争当事者になれば、今回のロシアのように「横暴」を許してしまう。制度上の欠陥と言っていい。
拒否権廃止に必要な国連憲章の改正はハードルが高い。当面は運用面で改善を探ることが現実的だ。全加盟国を代表して国際平和を追求する責務を、安保理は自覚してもらいたい。
米国のガザ紛争を巡る振る舞いも目に余る。今月4日にはガザへの人道支援の制限解除や、即時停戦をイスラエルに求める安保理決議案が、米国の拒否権行使によって否決された。賛成した残る14カ国からは「阻止された決議案は全世界の意見」と声が上がった。
また米国はイスラエルとイランの交戦に加勢し、イラン中部の三つの核施設を攻撃した。イスラエル擁護の姿勢を貫き、憲章順守を求める世論に背を向けるなら、米政権の孤立は一層鮮明になると覚悟しなければならない。
国連加盟国はいまや190カ国を超え、ことに発足当初は全体の1割弱だったアフリカの加盟国は3割近くを占めるまでに増えた。「多国間主義」が再生の道を開く。存在意義が問われる国連だが、役割を見限ってしまえば国際秩序は混沌(こんとん)を深めるばかりだろう。