社説

[きょう公示]国の針路明確に提示を

2025年7月3日 付

 参院選は本来、政権選択の選挙ではない。しかし今回は匹敵する重みを持つ。自民、公明の両党で過半数を割り込めば、衆参いずれも少数与党となり、首相退陣論や野党の一部を引き込んだ連立組み替え論が浮上する可能性があるためだ。
 第27回参院選がきょう公示される。日本政治の分岐点になり得る重要な局面だ。改選124と選挙区の欠員補充1の計125席を争う。非改選議席75を持つ与党が、全体の過半数維持に必要な50議席を確保できるかが焦点である。鹿児島選挙区からは4人が立候補する見込みだ。
 国民は終わりの見えない物価高に苦しんでいる。派閥裏金事件への批判は根強い。有権者の不満や怒りが、昨秋の衆院選、先の東京都議選で続いた自民大敗に表れたと見るべきだ。参院選の投票にも影響するだろう。
 ただ国民が抱く不安はもっと深い。急速な少子高齢化と人口減少は、社会のありようを根底から揺さぶるものだ。既に至る所にひずみは噴出している。国際情勢は大きく変化し、日本の立ち位置も不安定化している。
 それなのに、どの党も短期の視点に傾き過ぎている。当座の生活支援は無論大切だが、国の針路を示すのは政治の責務だ。各党には国民の支持を得られる明確な将来像の提示を求める。

物価高対策が前面

 最大の争点はコメの高騰に象徴される物価高への対策だ。自公は現金給付を打ち出した。一方、野党各党は消費税の減税や廃止を公約の前面に据えた。
 石破茂首相は、社会保障の財源であるとして消費税の減税は否定。野党は財源は確保できるとの立場だが、いずれにしろその妥当性は各党の公約や選挙期間の訴えを通じて見極めたい。
 より本質的な課題は、物価上昇を上回る持続的な賃上げをいかに実現するかだ。厚生労働省の調査では4月の物価変動を考慮した1人当たりの実質賃金は前年同月から1.8%減り、4カ月連続のマイナスだった。
 賃上げを実感しにくい状況が続けば将来不安は解消されない。生産性を向上させて中長期的に成長力を底上げする具体策に踏み込む必要がある。
 人口減少は加速している。厚労省によると、2024年に生まれた子どもの数(出生数)は初めて70万人を割った。政府推計より15年も早いペースで少子化が進む。同年の死亡数との差に当たる自然減は、過去最大の92万人近くになった。
 人口が減る中で社会保障制度を維持するには幅広い世代で痛みを分かち合う必要が出てくる。給付の抑制か、負担を増やすのかの議論から逃げるわけにはいかないだろう。
 石破政権の看板政策「地方創生」も真価が問われる。若者や女性に選ばれる地方をつくり、東京圏から移住する若者を倍増させる目標を掲げた。人口減少を前提とした上で経済成長を実現し、社会を機能させる適応策を図る構想だ。魅力的な学びの場や職場を地方に増やせるかが鍵となる。
 専門人材の不足で道路などインフラの管理や、介護や保険など行政サービスを一つの市町村だけで実施できなくなっている現実もある。鹿児島も例外ではない。打開策を競ってほしい。

政権の枠組み左右

 先の国会で先送りされた重要課題も忘れてはならない。
 旧安倍派の派閥裏金事件の真相は明らかにならず、首相が実態解明に乗り出す場面もなかった。企業・団体献金の扱いも持ち越された。「政治とカネ」の問題をうやむやにしたままで政治不信は払拭できない。
 選択的夫婦別姓は28年ぶりに関連法案が審議入りしたものの継続審議となった。自民党では推進派と保守派で意見が割れ、野党3党は個別に法案を提出して足並みがそろわなかった。
 別姓を認めない現行制度の下でさまざまな困難を抱える人たちの悩みに、候補者たちは正面から向き合うべきだ。
 トランプ米政権は関税で日本に圧力をかけ、強硬姿勢を崩す気配はない。日本周辺で中国や北朝鮮の軍事活動が活発化する中、米国一国に安全保障を依存することへの不確実性も増す。
 国民の生活と安全を守るために、今後の対米関係をどう構築するか。日本が原油輸入の大半を依存する中東情勢の激動も踏まえた外交構想が必要だ。
 先月末の共同通信の電話世論調査では、最も望ましい政権の枠組みは「自公政権に一部野党が加わった政権」が30.7%、「政界再編による新たな枠組み」が30.1%と拮抗(きっこう)した。
 国内外に厳しい現実が山積する中で、求められるのは大きな視野を持った政治の強いリーダーシップだ。どの政党・政治家に託すか、選び取るのは有権者である。

日間ランキング >