トカラ列島近海を震源とする地震が相次ぐ。きのう午後4時13分ごろには、十島村の悪石島で震度6弱を観測した。気象庁によると、国内での震度6弱は昨年8月に南海トラフ地震臨時情報が出た日向灘沖の地震以来。鹿児島県では1997年5月の県北西部地震以来となる。
先月21日以降、トカラ列島近海では、震度1以上の有感地震が計千回を超えた。まだ収束は見通せない。住民の心労は、どれほどのものだろうか。
悪石島の住民全員に人的被害がなかったとの報告を、まず喜びたい。だがこれまでの地震で、学校校庭の亀裂や牧草畑での落石なども見つかっている。注意が必要だ。とにかく、島に暮らす人たちの安全確保を最優先に、関係機関は対応に万全を期さなければならない。
この震源域では過去にも2023年9月に346回、21年12月には308回と、まとまった地震が起き、21年は悪石島で震度5強を1回観測した。
ただ、今回は回数が突出して多い。最大震度5弱も先月30日に悪石島で1回、今月2日に同島と小宝島で各1回を数えた。今回の震度6弱を受けて会見した気象庁は、当分の間、同程度の地震が起きる可能性を示し、揺れが強かった地域では家屋の倒壊、土砂災害の危険があると指摘した。
火山噴出物が堆積するトカラ列島の地質はもろく、地盤の中に亀裂が多い。急斜面や崖のそばに近寄らないなどの対策を徹底したい。
島外避難も検討へ
村によると、先月末時点で悪石島の人口は43世帯89人、小宝島は36世帯66人。地震がこれだけ続けば、夜も落ち着いて眠れないはずだ。
離島の生命線である港湾や浄水施設といったインフラ施設への影響を不安視する声もあり、心理的負担は計り知れない。住民の心身のケアに十分努めてほしい。
21年の悪石島群発地震の際は、12月9日に震度5強を観測した後、村は島外避難の意向を調査。12日までに、希望した12世帯30人が奄美市と鹿児島市に移り、村が借り上げた宿泊施設や親族宅に身を寄せた。避難解除は22日だった。
村はきのう、今回も島外避難を検討することを明らかにした。時期を逃さず、適切な対策が望まれる。避難先には、村役場のある鹿児島市の宿泊施設が候補に挙がる。住民の意向に沿って、自治体をまたぐ広域避難がスムーズに進むよう急いでもらいたい。
鹿児島地方気象台によると一連の活動はほぼ同じ場所で繰り返し、大陸側のプレート内部で起きる内陸地震とみられる。海側プレートの沈み込みでひずみがたまり、地震が頻発するのが基本的なメカニズムとされるが、詳しくは分かっていない。
霧島連山や桜島から続く火山の列に連なることも、影響しているようだ。地下マグマが冷やされる過程で、中に含まれた水が放出されて活断層に入り込み、滑りやすくして地震を生じさせているとの指摘もある。
気象庁は、過去の事例から「いつ終わるのか、減っていくのか不明」との見方だ。
鹿児島県は災害対策本部を設置。石破茂首相は、自治体と緊密に連携し、政府一体となって災害応急対策に取り組むよう指示し、政府は首相官邸の危機管理センターに設置していた情報連絡室を官邸対策室に格上げした。住民の不安に応える機動的な支援の取り組みを求める。
デマには注意して
SNS(交流サイト)ではトカラ近海の地震が続いた後、国内での大地震が起きるという「トカラの法則」なるうわさが飛び交っている。
東日本大震災や熊本地震が例示されることが多いが、そもそも東北や熊本はトカラ列島と地理的に離れ、因果関係があるとは考えにくい。「法則のように見えても根拠のない偶然」。専門家ははっきり否定する。
7月に大災害が日本で起きるという「予言」も話題だ。気象庁はホームページで「日時と場所を特定した地震を予知する情報はデマ」と説明。野村竜一長官は先月の記者会見で「そのような情報で心配する必要は一切ない」と打ち消した。科学的根拠のない情報には、冷静に距離を置くべきだ。
その上で、地震大国日本の現実もしっかり認識しておかねばならない。
政府の地震調査委員会は南海トラフ巨大地震について今年1月、マグニチュード8〜9程度が30年以内に発生する確率を「70〜80%」から「80%程度」に引き上げた。
いざという時、慌てずに行動するには日頃からの準備が欠かせない。家具の固定はもちろん、避難の手順や、家族間の安否確認方法、備蓄食品や非常用持ち出し袋の点検などを改めて確認して備えたい。