2020年7月、九州地方を襲った豪雨から5年となった。熊本県では南部を流れる球磨川や支流が氾濫し、67人が死亡、現在も2人が行方不明のままだ。
被災地は人口減少に拍車がかかり、地域衰退の危機に直面している。安心して暮らし、命を守れる地域づくりへ、できることを急ぐ必要がある。
20年7月の豪雨は、梅雨前線の停滞や線状降水帯の発生により、各地で川が氾濫した。気象庁は4日未明、熊本県と鹿児島県の一部に大雨特別警報を発表した。
熊本県の球磨川流域では線状降水帯の影響で、時間30ミリを超える雨が8時間にわたって降り続いた。家屋は7000棟超が被害を受け、今も27戸49人が仮設住宅などに入居している。
球磨川と支流の合流点近くにあった特別養護老人ホームでは、2階への避難が間に合わず入所者14人が泥水にのまれ亡くなった。避難に時間がかかる高齢者をどう守ればいいのか、施設防災のあり方に大きな教訓を残した。
当時の被害を受け、全国の特養を対象にした実態調査によると、回答した施設の4割が洪水や土砂災害の想定区域に立っていた。
減災に向けて政府は、ダムや堤防だけに頼らない「流域治水」に転換。21年に成立した関連法は、自治体の権限を強め、浸水被害の危険が高いエリアは、許可なく高齢者施設や住宅の建築ができないようにした。実効性を担保できるかが、問われよう。
一方、熊本県はかつて「ダムによらない治水」を打ち出し、球磨川支流の川辺川ダム計画について反対していたが、想定を超えた豪雨後、一転して容認。「命と環境の両方を守る」として、森林や遊水池などの整備を組み合わせる「緑の流域治水」を掲げている。
国はダムの27年度の本体着工、35年度中の完成を目指すが、水没予定地がある五木村など一部住民の根強い反発が残る。既存の施設改修からダムまで、大小のハード整備はいずれにしろ時間を要する。地域の連携、避難訓練などソフト対策を着実に進めたい。
球磨村の人口は約1600人で豪雨前に比べ半減した。警察や消防など公的援助はもとより、住民が支え合う「共助」を向上するためにも、記憶の風化を防ぐことが肝要だろう。
大部分が不通となったJR肥薩線は、人吉-八代間の鉄路復旧を目指す方針が決まった。被災前から赤字で、JR九州は鉄路での復旧に慎重姿勢を見せていたが、熊本県が施設保有や利用促進策を示し、JRと合意した。
鹿児島県につながる人吉-吉松間はめどが立っていない。宮崎、熊本と沿線3県で事務協議が始まったばかりだ。復旧してどう持続していけるか、地域振興の視点で議論を進めてほしい。