社説

[関税25%通告]対応は冷静に粘り強く

2025年7月10日 付

 トランプ米大統領が石破茂首相に書簡を送り、日本に対する「相互関税」25%を通告した。自動車、鉄鋼などの分野別関税を除く製品や農作物が対象になる。

 4月に発表した24%を1ポイント上回る水準で、8月1日から適用する。米政府は各国・地域の相互関税を一部猶予する期限を7月9日としてきたが、事実上の交渉期限延期とみられる。再延長は認めない方針だ。

 協議を重ねている中で一方的に書簡を送りつけるやり方はあまりに身勝手だ。各国・地域との合意が進まないことへの焦りも垣間見える。日本政府は冷静に粘り強く対応し、打開策を探ってもらいたい。

 これまでの交渉で合意できたのは英国とベトナムだけ。トランプ氏は日本以外の13カ国にも同様の書簡を送り、25~40%の関税を課すとした。

 日本への書簡では両国の関係を「残念ながら全く相互的でない」と非難する。米国の巨額の貿易赤字を問題視し、日本の関税や貿易障壁を是正するために必要な措置だと正当化した。

 わざわざ「たった(only)」という言葉を使い、25%は「貿易赤字の是正に必要な水準よりもはるかに低いことを理解してほしい」と説明。日本の対応次第で関税を下げる可能性を示唆しつつ、対抗措置に踏み切れば税率を上乗せすると威圧した。

 石破首相は「誠に遺憾だ」と述べた上で、日米関税協議の継続に意欲を示した。

 交渉担当の赤沢亮正経済再生担当相は7回渡米し、首相も電話や直接会談でトランプ氏と向き合ってきた。通商ルールを無視しているのは米国で、日本が安易に譲れないのは当然だ。難しい交渉なのも分かる。ただ、言うべき主張を的確に伝え、米国側の真意を正しく把握できているのかが気になる。

 日本は基幹産業である自動車とパッケージでの交渉を働きかけ、造船の技術協力や農産物の輸入拡大を提案。対米投資、雇用での貢献も強調してきた。米国の自動車やコメを受け入れないことに不満を漏らすトランプ政権との間に、すれ違いがあるのは明らかだ。

 USスチールを買収した日本製鉄がトランプ氏を翻意させたのは、破談より巨額投資を確保した方が利益が大きいと認識させたことが大きい。関税交渉でも、高関税より米側の利益になる方策を示し納得させる必要がある。

 25%が課されれば、日本経済への打撃は避けられない。鹿児島県内でも2023年度の農林水産物輸出額367億円のうち、牛肉や養殖ブリを中心に46%が米国向けだ。関係者は販売低下を懸念している。

 単独交渉にこだわらず、韓国や東南アジア、EU諸国などとの協力も検討する時期に来ているのではないか。

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