社説

[佐賀オスプレイ]飛行の安全を最優先に

2025年7月11日 付

 陸上自衛隊は輸送機V22オスプレイを配備する佐賀駐屯地(佐賀市)を、おととい開設し、最初の1機が到着した。暫定配備先だった木更津駐屯地(千葉県)から8月中旬までに全17機を移駐し、運用を本格化させる。

 海洋進出を強める中国を念頭に九州・沖縄の防衛力を強化する「南西シフト」の主力装備だ。離島防衛専門部隊「水陸機動団」の輸送を担う。各地の自衛隊施設や離島への飛行と訓練も想定され、鹿児島も密接に関係する。

 オスプレイは開発段階からトラブルが多く、2023年11月には米空軍機が屋久島沖で墜落し8人が死亡するなど重大事故が相次いでいる。安全性への懸念は根強い。陸自には飛行の安全を最優先にした運用を強く求めたい。

 佐賀駐屯地は佐賀空港に隣接し、空港の滑走路を使う。14年に政府が配備を要請してから11年越しの開設となった。防衛省によると、水陸機動団が拠点とする相浦(あいのうら)駐屯地(長崎県)と近く一体運用しやすい点や、空港が有明海に面する干拓地で騒音などの問題が生じにくい点が選定理由だった。

 空港を巡っては、建設時に佐賀県と地元漁協が自衛隊の共用を認めない公害防止協定を結んでいた。漁業者には諫早湾干拓事業など有明海での大型事業を経て蓄積した国への不信感もあった。しかし18年に県が配備を受け入れたのに続き、22年に漁協も公害防止協定を見直し容認する経緯をたどった。

 国は佐賀県に20年間で計100億円の着陸料を払い、県はこれを元に漁業振興を図る。ただ周辺の漁業者には駐屯地の排水によるノリ養殖への影響を危ぶむ声がある。今後も信頼関係を継続する努力は不可欠だ。

 防衛省の想定では、駐屯地でオスプレイは年間290日程度運用し、1日平均およそ16回離着陸する。午後5~10時の夜間飛行は75日程度を見込む。目達原(めたばる)駐屯地(佐賀県)のヘリコプター約50機を移す計画も実行されると、離着陸は年間1万7000回程度に及ぶ。

 騒音負担を生じさせないよう海側の飛行を基本に、ホバリング訓練は飛行場内で行うという。環境基準を超える範囲に住宅地はないとの説明だが、機体の安全性を含め住民の不安は消えていない。空港が軍民共用となることや米軍の利用を心配する声もある。

 九州防衛局は駐屯地内に苦情や相談の窓口を設置し対応する方針だ。同局と佐賀県、佐賀市、漁協、農協からなる協議会も先日初会合を開き、駐屯地開設に伴う課題を議論していくことを確認した。軍事的な制約はあるにしても積極的な情報開示は欠かせない。

 中国軍は沖縄周辺での活動を活発化させており、警戒を怠るべきではない。ただ地元の理解なしに安全保障政策は立ち行かないことを、政府は改めて自覚しなければならない。

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