社説

[原発政策]福島の教訓忘れまい

2025年7月15日 付

 石破政権が2月に閣議決定したエネルギー基本計画で、2011年の東京電力福島第1原発事故後に「依存度を低減する」としてきた文言を削除し、原発推進を明確にした。国民的議論がないまま原発回帰へと進む。

 政策転換後、初の国政選挙となる参院選だが、原発やエネルギーの論戦は深まっていない。

 発電時に二酸化炭素を出さないものの、重大事故の恐れもある原発の議論は未来の社会、経済を考える上で避けられない。14年たった今も避難が続き、廃炉への道筋が見えない福島事故の教訓も忘れてはいけない。

 基本計画は、40年度に再生エネルギーを電源構成の4〜5割まで増やすとともに、原発の割合を8.5%(23年度実績)から2割程度に上げる。古い原発を建て替える要件を緩和し、新増設に道も開いた。

 現在動いている原発は14基。2割に増やすには30基を超える既存原発をほぼ全て動かさなければならない。

 こうした動きを受け、薩摩川内市の川内原発を稼働させる九州電力は、35年度までのグループ経営ビジョンに、既存原発より安全性が高いとされる「次世代革新炉」の開発と設置の検討を盛り込んだ。

 今回の参院選の公約で自民党は再稼働に加え、次世代型への建て替えを訴える。連立を組む公明党も容認する。

 次世代型革新炉は日本維新の会、国民民主党、参政党も開発を主張する。推進を目指すなら丁寧な説明が求められる。

 福島の事故は終わっておらず、使用済み核燃料の再処理や高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分のめども立っていない。ウクライナの原発がロシア軍に占領され、イランの核施設は米国にミサイルを撃ち込まれた。攻撃目標にされる危険性も否定できなくなった。

 立憲民主党は「新増設は認めない」と明記したが、党綱領に示す「一日も早い原発ゼロ」には踏み込まなかった。共産党、れいわ新選組、社民党は原発ゼロを訴える。

 生成AIの普及などで電力需要の増加が予想される中、資源に乏しい日本でどうエネルギーを確保していくのか。化石燃料の大半を中東に依存する点や、風力・太陽光発電の環境への影響、技術革新の進め方など他にも課題は多い。各党、各候補は議論を深めてほしい。

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