社説

[参院選 社会保障]未来を見据えた議論も

2025年7月17日 付

 日本は2040年ごろに高齢化がピークを迎える一方、社会保障制度を支える現役世代の減少は続く見込みだ。医療や介護、年金は将来に向けて、財源も人材確保も不安を抱えている。

 制度の持続性を高めるには支え手の負担を増やすか、給付を抑制するかしなければならない。ところが参院選の各党の公約で目立つのは、現役世代の支援、給付・サービスの維持、財源に充てられる消費税の減税・廃止だ。

 物価高の中でも、現在の受益に傾き過ぎて安定財源づくりを先送りすれば、将来世代にツケを回すことになる。各党には未来を見据えた「負担と給付」の在り方の深い議論を求めたい。

 社会保障給付費は25年度予算で140兆円規模に上り、今後も膨張傾向は続くと見られる。負担が増える一方の現役世代の支援策に、野党の多くが焦点を当てるのが社会保険料の軽減だ。

 日本維新の会は、国民医療費を年4兆円以上削減し、社会保険料を現役世代1人当たり年6万円引き下げると公約した。そのため市販薬と効能の似たOTC類似薬の保険適用除外や病床削減を掲げた。国民民主党は75歳以上の高齢者の医療費自己負担(原則1割)の2~3割への引き上げが柱の一つだ。

 いずれも医療サービスの低下、高齢者や患者の新たな負担は避けられず反発も予想される。

 先の国会で自民、公明、立憲民主3党が成立させた年金制度改革法は、就職氷河期世代などが低年金に陥るのを防いで老後の暮らしを支えるため、基礎年金(国民年金)の将来的な底上げを付則に盛り込んだ。3党は公約でも底上げを主張する。

 だが実現に必要な最大年2兆円規模の税財源の確保は明確にしていない。国民の理解を得る具体策を示すべきだ。給付水準向上に有力とされ、改革法の付則に記した短時間労働者の厚生年金の適用拡大や、国民年金保険料の拠出期間を現行の40年間から45年間に延長する案も改めて問うてはどうか。

 介護の現場は人手不足が深刻だ。厚生労働省の推計では、介護職員は来年度に全国で約25万人不足し、40年度には約57万人足りなくなる。訪問介護事業者の倒産も相次ぐ。物価高に基本報酬の引き下げが追い打ちになった。人材確保には全産業平均より月8万円低い賃金の引き上げなど処遇改善は不可欠。各党は危機感を持つ必要がある。

 心配なのは少子化の加速度的な進行だ。24年に生まれた子どもの数は68万人余りと過去最少で、減速する兆しは見えない。今想定している社会保障制度の維持・存続策は、予想以上の急速な人口減に耐えられるのか。そうした点も視野に入れて、どの政党が責任ある政策を訴えているか見極めたい。

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