関西電力が美浜原発(福井県)建て替えに向け地質調査再開を表明した。
国内で原発新設の動きは2011年の東京電力福島第1原発事故後初めて。大きな転換点となるが、未解決の課題があまりに多すぎる。
福島事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)取り出しの見通しは立っていない。九州電力川内(薩摩川内市)をはじめ各原発の使用済み核燃料は保管容量が満杯に近づき、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分の筋道も見えない。諸課題の解決を含めた原子力政策への国民的議論や合意がないまま、新設に踏み出すことは容認できない。
関電は10年に美浜原発1号機建て替えを目指し調査を始めたが、福島事故の影響で止まった。古くて小さい1、2号機の廃炉を決め、49年前に運転を始めた3号機だけが稼働している。
事故当時の民主党政権は「原発ゼロ」を打ち出した。しかし、14年に自民党の安倍政権がエネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード電源」に位置づけた。22年には岸田政権が「最大限活用」を掲げ廃炉原発の建て替えを容認。今年2月決定の基本計画では「依存度低減」の文字が消えた。
関電の方針はこうした政府の「原発回帰」に合わせたものだ。森望社長は「資源が乏しい日本に原子力は必要不可欠。できるだけ早期に運転開始までもっていきたい」と力を込めた。
事故後に国内で再稼働した14基の半数7基が関電だ。古い原発が多く、新設に踏み切る機会を探っていた。立地自治体の元助役から役員が多額の金品を受領する不祥事が発覚しても、その姿勢は変わらなかった。
次世代型原発の一つ「革新軽水炉」の新設を念頭に置く。建設費は1兆円規模。海外では建設費が想定を大幅に上回った例もある。調査開始から営業運転まで20年程度かかるとされる。次世代型は前例がなく、原子力規制委員会の審査がスムーズに進む保証はない。データセンターや半導体産業が成長し電力需要は伸びると踏むが、採算の見通しは立ちにくい。
政府は建設費の一部を電気代に上乗せし消費者から徴収する仕組みを検討している。電力会社の投資回収を見通しやすくして建設を促す狙いだが、国民の負担増につながりかねない。
参院選投票日2日後に発表した関電の姿勢にも注文を付けたい。各党公約は「次世代型革新炉の開発」から「新増設は認めない」「原発ゼロ」まで幅広かった。きっかけがあれば論戦は深まったはずだが、物価高や外国人政策の陰に隠れた。国民的な議論の機会をあえて外したと見られても仕方ない。
今なお避難を続けざるを得ない福島県関係者、安全性に不安を持つ国民と対話する責任が、政府や電力会社にあることを忘れてはならない。