東京電力が2030年代初頭に着手を目指していた福島第1原発での溶融核燃料(デブリ)の本格取り出しが、37年度以降にずれ込む見通しとなった。廃炉の最難関とされるが、準備工事に12~15年程度かかるためだという。
東電は事故発生40年となる51年までの廃炉完了目標を下ろしていないが、遅れは必至で見通しは甘すぎる。取り出したデブリや敷地で増える放射性廃棄物の処分など未解決の課題は多く、費用の上振れも指摘される。
先行きがいかに困難か、ごまかさず国民にきちんと説明するべきだ。
11年3月に起きた東日本大震災の津波により、第1原発は電源を失い、原発にとって最も必要な核燃料の冷却ができなくなった。
高温で溶け落ちた核燃料が制御棒やコンクリートと混ざり、冷え固まったものがデブリだ。1~3号機に計880トンあると推計される。水をかけて冷やし続けており、汚染水の発生源ともなっている。
周辺は今も放射線量が極めて高く、人は簡単に近づけない。取り出しは「廃炉の本丸」とされるが、遠隔での作業には多くの難題が立ちはだかる。
水素爆発を免れた2号機で昨年11月と今年4月の2回、試験的に採取できた。ただ、この試験取り出しも3年遅れで、いずれも1グラム未満とごく微量。全量取り出しまで、途方もない道のりを想起させた。
政府と東電は41~51年までに廃炉を完了する工程表に基づき、作業を進めてきた。東電は、3号機を皮切りとするデブリ取り出しが先延ばしになっても、国と掲げた工程表は「重い」として見直す時期ではない、と強調した。
一方、廃炉の技術支援を担う原子力損害賠償・廃炉等支援機構の更田豊志廃炉総括監は、目標の実現性について「元々困難だと感じていた」と明かした。事故があった11年の12月に公表した工程自体、楽観的だったのではないか。見直しは不可避だ。
東電の2025年4~6月期の連結決算は、デブリ取り出しに向けた準備の費用として9030億円もの特別損失を計上した。事故に伴う賠償や廃炉に資金捻出が必要な東電には痛手だ。
政府は、事故の賠償や除染などの対応費用を総額23兆4000億円と見込み、このうち廃炉費用は総額8兆円と試算する。ただ、この見積もりにはデブリの最終的な処分費用などは含まれていない。費用は際限なく膨らむ可能性があり、消費者や国民がさらなる負担を迫られる恐れがある。
現実性を欠く廃炉目標は、福島の被災者に対して不誠実ではないか。人が住めない帰還困難区域や除染土の最終処分など課題は山積だ。原発事故の傷跡の深刻さは、年がたつにつれ、より明らかになっている。