社説

[上乗せ関税適用]早期修正へ米側説得を

2025年8月8日 付

 トランプ関税の税率に関し、日米の見解に食い違いが生じている。米政権はきのう、各国・地域への「相互関税」の適用を始め、日本に15%の「上乗せ関税」を発動した。上乗せを否定してきた日本政府と異なる認識だ。

 日米は7月下旬に、トランプ大統領が25%と宣言していた相互関税の税率を15%に下げることで合意。しかし合意文書を作成しなかった点を、国会で野党が「口約束だ」と追及していた。その懸念が現実となったと言える。
 日本の主張が通らなければ合意より高い水準の税率となり、輸出企業を中心に日本経済への負担が重くなる。政府は米側を説得して早期の修正を実現し、国民の不安を払拭すべきだ。

 政府は、既存の関税率が15%未満の品目は一律15%になり、15%以上の場合は上乗せされずに従来の税率が維持されると説明してきた。

 しかし米国は、これまで発表した大統領令や官報などの文書で、日本側が主張する税率を記載しなかった。日本と同様の条件を合意したとされる欧州連合(EU)に関しては明記した。

 牛肉の場合、政府説明通りなら従来の税率の26.4%になるはずだったが、15%が上乗せされれば41.4%となってしまう。畜産県の鹿児島にとって影響が心配される。

 交渉担当の赤沢亮正経済再生担当相が国会答弁で、関税率について「齟齬(そご)がないことは政府として米側に確認済みだ」と強調したのは一体何だったのか。合意文書を作らなかった理由を、石破茂首相が「関税の引き下げが遅れることを恐れた」と説明した判断の妥当性も問われよう。

 日本が交渉で最重要視してきた自動車関税は、現在の27.5%から15%に引き下げることで合意したとされるが、これも大統領令に記載がない。早期引き下げの要求を強めるべきだ。

 合意に盛り込んだ5500億ドル(約83兆円)の対米投資についても、日米双方の主張は大きく食い違っている。トランプ氏は投資利益の9割が自国に入ると強調。日本政府関係者は米側の利益が大きくなるのは巨額投資の一部の事業に限るとの見解を示す。

 ベセント米財務長官は四半期ごとに合意の実行状況を点検し、トランプ氏が不満なら「関税は自動車も含めて25%に戻る」とけん制する。だがそうであれば、米側も合意内容を誠実に履行するのが筋だろう。

 貿易ルールを完全に無視し、高関税をかけようとするトランプ米政権との交渉が難しかったのは間違いない。赤沢氏らが「これまでと同じ対応はできない」と考えた事情も理解できる。しかし、ここまで双方の言い分がかけ離れては、赤沢氏が胸を張る「日米の信頼関係」に疑問を抱かざるを得ない。石破内閣の責任が問われる局面だ。

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