ホテルや旅館の利用者に課す宿泊税を導入する動きが、全国の自治体で加速している。鹿児島県内では指宿、奄美の両市と与論町が検討。訪日外国人を含む観光客が増加する中、独自の新たな税源を確保し、持続可能な観光地づくりを進める狙いである。
人口減少が進み、税収が先細りする中、地域社会の維持に観光振興は欠かせない。交通の混雑やゴミの増加のような弊害を招きかねないため、一つの手法として訪問客に応分の負担を求めるのは理にかなうと言えよう。まずは宿泊者や徴収・納付を担う宿泊事業者らの十分な理解が欠かせない。具体的な使途や効果について、地域の実情に応じたきめ細かな議論が求められる。
宿泊税は自治体が条例に基づき使い道を特定する法定外目的税で、総務相の同意が必要だ。2002年の東京を皮切りに大阪府、京都市、長崎市など全国に拡大。今冬以降、熊本市を含む10市町村が順次課税する予定である。鹿児島県内での導入例はまだない。
先行自治体を見ると、1人1泊数百円を徴収する定額制が多い。奄美市は世界自然遺産に登録された奄美大島の価値を高めるため、1人1泊200円で27年度からの実施を計画している。
定率制は宿泊料金の高い施設ほど利用者の負担を多くできる特徴があり、税負担の公平性が高いとされる。国際的なスキーリゾート地区にある北海道倶知安町は宿泊料金の2%徴収をいち早く始めた。与論町は5%を想定しており、税率としては全国で最も高くなる予定という。指宿市は2%。いずれも26年度中の導入を目指す。
想定する年間税収は与論町4500万円、奄美市7500万円、指宿市1億3000万円。使途は、外来種対策、交通の整備、サンゴ礁の保全、伝統文化の継承、観光拠点の整備、宿泊客誘致事業などさまざまだ。旅行者らの理解を得るためには、使途や効果を「見える化」し、透明性を確保することが欠かせない。住民にも意見を聞き、丁寧に説明してほしい。
コロナ禍収束と円安を背景に、25年上半期の訪日外国人客が過去最速で2000万人の大台を突破した。一方、客数、消費額ともに三大都市圏への偏りが指摘され、地方への分散が課題となっている。オーバーツーリズム(観光公害)も指摘されて久しい。
鹿児島県内は回復基調にあるものの宿泊者が伸び悩み、九州内では福岡、大分、熊本に後れをとる。観光関係者には物価高騰や人手不足の中、徴税の事務処理や告知の負担を懸念する声がある。指宿市内の有志は宿泊税導入の中止を求める要望書を市長に提出した。
宿泊税を観光の将来像について議論する契機としたい。税収を有効活用して付加価値を高め、交流人口を増やす好循環につなげたい。