鹿児島県本土は8日未明から明け方にかけて線状降水帯が2回発生し、記録的な大雨に襲われた。気象庁は霧島市に一時、大雨特別警報を発表。姶良市蒲生町白男では民家の裏山が崩れ、住人の30代女性が犠牲になった。
両市では3万6000戸以上が断水となり、12日午後の時点で完全に復旧していない。医療機関や商店では業務に支障が出るなど市民生活はまひした。
天気は回復し県本土は当面、晴れや曇りの予報だが、台風シーズンも近づいている。災害から命を守るには事前にリスクを把握することが重要だ。住んでいる地域や近くの河川の防災上の危険度を「ハザードマップ」などで再確認してもらいたい。
鹿児島地方気象台によると、線状降水帯はまず姶良市から霧島市にかけて、次に両市と曽於市にまたがる範囲で断続的に発生したとみられる。短時間に集中して激しい雨をもたらした。
8日観測した24時間雨量は、霧島市牧之原で515.5ミリ、同市溝辺で506.5ミリ。いずれも同地点の観測史上最大で、8月の月降水量の2倍近いすさまじい雨が降った。
土砂崩れや道路の崩落などで集落が孤立したり、川が氾濫して濁流が人家に流れ込んだりなどの被害が相次いだ。就寝中に自宅を訪れた消防隊に促され、水位が腰から胸くらいの高さの中を避難した高齢者もいた。早期避難が大切とはいえ、未明の集中豪雨は身動きが取りづらい。対処の難しさが改めて浮き彫りになったと言える。
国土交通省によると、2023年の人命に関わる土砂災害の85%は警戒区域内で起きた。事前避難を徹底できれば人的被害を減らせる可能性が高い。
国交省は全国約70万カ所の土砂災害警戒区域が、新たな調査で約100万カ所に増える見通しを示している。鹿児島県によると、今年1月14日現在の県内の区域数は2万3842カ所だ。住民への周知徹底を図ってほしい。
一方で住民は、警戒区域外や、大雨特別警報が出されていなくても災害に遭う可能性はあるとの意識を持つことが必要だ。気象庁がホームページなどで提供する「キキクル」は、災害発生の危険度を5段階に色分けして地図上に表示し10分ごとに更新する。テレビやラジオを含め、複数の情報から危険が迫っていないかを判断してほしい。
災害時に自力で避難できない障害者や高齢者、入院患者らの避難についても自治体や関係者の計画策定の推進や態勢強化が求められる。
大雨は九州北部でも発生し、熊本県と福岡県では犠牲者や行方不明者が出ている。専門家は要因の一つに、日本周辺での海面水温の上昇と、この夏の猛暑の影響を挙げる。異常気象を念頭に、大雨はどこでも起こり得ると捉え、注意を怠らないことが重要だ。