東京株式市場の日経平均株価(225種)が、初めて4万3000円を超え、2日続けて最高値を更新した。トランプ米政権の「相互関税」による日本企業への打撃が想定に比べて限定的との見方が強まったためだ。
史上最高値の更新は昨年7月以来だが、多くの国民はその恩恵を実感できない。長引く物価上昇に賃上げが追いついておらず、投資する余裕のある人は限られる。大企業はもうけを株主だけでなく、賃上げや雇用を通して家計へ広く行き届ける必要がある。
平均株価は今年4月、米中による関税の応酬が世界経済の急激な減速につながるとの見方から急落し、一時3万1000円を割り込んだ。その後は半導体関連銘柄が買い戻され、急ピッチで回復していた。年末に向け4万4000円を目指す展開を見込む声も聞かれる。
株高のけん引役は海外投資家だ。海外の主要な株価指数と比べて割安感があったことが一因とされる。政策が変遷するトランプ政権下の米国への集中投資を避け、米関税ショックによる世界株安から回復が遅れた日本株に資金が流れ込んだ。
日本株を売買する6割超、保有する3割を海外投資家が占める。上場企業が、「物言う株主」を含む彼らを意識して株主還元策に力を注いできた姿勢も、最高値につながったといえる。
日本企業の自社株買いが4~6月に過去最高のペースに上り相場を押し上げたのは、象徴的だ。発行した株式を企業が市場から買い戻すと数が減り、株価は上昇しやすいためだ。経済産業省によると、2023年度は6兆4000億円と、10年間で6.3倍に上った。
株主還元のもう一つの柱である配当は、経産省によると23年度の総額が15兆4000億円に上る。10年前の2.6倍に達した。
一方で、賃金は伸び悩んできた。今春闘は、連合の集計で平均5.25%と2年続けて5%の大台を記録した。しかしコメや食品の高騰で、物価を反映した実質賃金は6月まで6カ月連続のマイナスだ。株価重視の分、働く人々が軽んじられてはいないだろうか。
企業の姿勢を後押ししてきたのは、政府と日銀の政策だ。日銀の大規模な金融緩和策を柱とするアベノミクス以降、円安が続いた。円安は輸出企業の業績をかさ上げし株価を支えた一方で、輸入コスト増を通じて物価高による生活圧迫を招いている。
新たな少額投資非課税制度(NISA)で株式投資の裾野が広がったのは事実だ。ただ家計の金融資産に占める株式・投資信託は18%に過ぎない。
景気の実態に逆行するような株高基調がこのまま続くかは見通しづらい。国内政局が混迷すれば市場の熱は急速に冷めかねないと覚悟すべきだろう。