社説

[コメ増産へ転換]生産者支援との両立を

2025年8月16日 付

 政府は、コメの事実上の減反(生産調整)に区切りをつけ、増産へ大きくかじを切る方針を打ち出した。半世紀にわたり続けてきた農業政策の歴史的な転換点となる。

 石破茂首相は関係閣僚会議で「農業者が増産に前向きに取り組める支援」を表明した。農地集約による生産性向上や輸出拡大を進める考えだ。2026年夏ごろまでに政策の方向性を集約し、27年度以降に増産に踏み出す。

 「主食」の適正価格での安定供給は政府の最重要課題の一つだ。生産者が持続的にコメ作りを続けられる支援策との両立を図らなければならない。

 減反は1970年代に始まり、コメの生産量を抑えて価格を維持する手法を続けてきた。2018年に廃止した後も、人口減で需要が減り続けるとの前提で、主食用から飼料米や加工米に転換を促す政策がとられてきた。

 しかし昨夏来のコメ不足と価格高騰で制度のひずみが露呈した。農林水産省は「コメは足りている」と繰り返し説明し、流通の目詰まりが問題と主張し続けた。だが、今月になって生産量不足が要因と誤りを認めるに至った。

 政府備蓄米の放出が遅れ、「令和の米騒動」を招いた判断ミスを反省してほしい。「失政」を認めた方針転換は評価できるが、問題はその処方箋だ。

 生産量を上回る需要増の背景には、インバウンド(訪日客)の増加や一般家庭での消費拡大があるという。一方で政府が行ってきた流通量の把握には正確さに課題があるとされ、需給見通しの調査の精度向上が求められる。

 増産の具体策として、耕作放棄地を集約する農地中間管理機構(農地バンク)の機能強化や、輸出拡大に向けて生産コストの削減に取り組む農家の支援拡充を打ち出す。収量の多い新品種の開発、ロボットや人工知能(AI)を活用したスマート農業も強化する。

 ただ課題は山積する。コメは生産者の過半が70歳以上で高齢化が著しい。資材価格の高騰や高温続きによる水不足で、農家から「すぐには対応できない」との声がもれる。輸出拡大には安価な海外産との競争が避けられず、生産コストの削減は欠かせない。

 増産で価格が下落し、農家の収入が減ることは特に懸念される。穴埋めの保険や直接支払いの拡充など「所得補償」を行うのか。農家の不安が生じない支援策の制度設計と、巨額の財源を確保する丁寧な議論が必要だ。

 大規模化に向けた農地集約に関しても、先祖代々の土地を手放したくない農家や、農業継続を望む兼業や中小規模農家とどう調整するかが問われる。

 政府には、増産への転換をコメ作り再建と農業基盤の強化につなげる責任がある。若い世代や企業が希望を持って参入し、消費者が安心できる農業を実現してもらいたい。

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