社説

[県農産輸出最高]販路拡大の努力継続を

2025年8月17日 付

 鹿児島県の2024年度農林水産物輸出額は470億円で、公表を始めた11年度以降の最高額を更新した。健康志向や日本食の関心の高まりで茶が倍増となったほか、円安の追い風が続き、前年度366億円から104億円(28%増)伸びた。

 県が掲げる「25年度500億円」の目標に到達しそうな勢いである。気がかりなのは、24年度輸出総額のうち5割強(236億円)が米国向けである点だ。トランプ政権の関税政策が水を差しかねない。無税だったブリや緑茶は15%課税になっている。

 トランプ政権の施策は従来の常識にとらわれないため、今後も紆余(うよ)曲折が予想される。米国以外に販路を拡大する努力の継続は欠かせない。

 輸出額は県が輸出企業など185事業者から聞き取った。

 品目別でみると、牛肉の172億円(23%増)が最多だった。和牛肉の需要増や円安もあり、欧米や台湾向けが伸びた。すしのネタとして人気のある養殖ブリが148億円(25%増)で続いた。輸出総額の7割近くを牛肉とブリが占める。

 四つある部門のうち、農産部門は69%増の73億円で、茶(63億円)がけん引した。欧米での抹茶需要を受け、原料となるてん茶工場の整備や有機栽培化を進めた成果だろう。

 畜産部門は、豚肉が豚熱ワクチン接種による輸出停止で99%減の200万円、鶏肉は鳥インフルエンザが響き30%減の1億9200万円とそれぞれ振るわなかった。牛肉が好調ぶりを維持していることから全体では20%増の175億円となった。養殖ブリを柱とする水産部門は24%増の173億円、林産部門は中国向け丸太を中心に29%増の47億円だった。

 米国との関税交渉をたどると、鹿児島の主要品目である牛肉は、4月からの一律10%上乗せで36.4%になり、今回の相互関税では以前の26.4%に戻るとみられた。ところが米政府は今月7日、本来の税率に15%上乗せした41.4%の関税を発動した。米側が修正する見込みではあるものの、振り回された生産者や事業者が戸惑うのは当然だ。

 米国以外の輸出先では欧州連合(EU)、中国、香港、台湾が40億円台で並んでおり、79%増と急伸したタイ(14億円)が注目される。一方、中国は、日本の牛海綿状脳症(BSE)発生で01年に停止した牛肉輸入を再開する見通しで、動き出す巨大市場への対応が大きな鍵となりそうだ。

 人口減で国内市場が細る中、安定して海外展開するには、輸出先の多角化や新たな販路開拓は避けて通れない。事業者が少しでも先を見通せるように、国や県は確度の高い情報収集・提供に努めてほしい。

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