社説

[川内原発控訴審]安全判断回避した判決

2025年8月28日 付

 九州電力川内原発1、2号機(薩摩川内市)は半径160キロ圏内に五つのカルデラ火山がある。巨大噴火に伴う安全性は確保されているのか。疑問や不安が生じるのは当然だろう。

 火山リスクの検討が不十分だと主張する住民らは、国の原子力規制委員会による設置許可取り消しを求めて2016年に福岡地裁に提訴。19年の棄却を受けた控訴審で、福岡高裁はきのう、一審に続き住民側の請求を退けた。

 判決は、川内原発の基準適合性審査で使われた「火山影響評価ガイド(火山ガイド)」について、専門的知見などを踏まえた検討を経て作られており「合理性を有する相応の根拠がある」と指摘。「不合理な点がないかは疑いが残る」とした一審判決より、お墨付きを与えた。司法自らの安全判断は避け、原発回帰の国策に従う流れを明確にした。

 11年の東京電力福島第1原発の事故後、地震や津波対策などを強化した新規制基準が13年7月に施行された。新基準下で国が出した許可を巡る行政訴訟では、初めての高裁判決となる。原告側は「思考停止に陥った安全神話そのもの」と厳しく批判した。

 同種訴訟では川内以外に高浜1、2号機(福井県)など全国3高裁で4件が審理中だ。続く訴訟に波及するのか。原発のもたらす「リスク」を丁寧に認定していってもらいたい。

 今回主な争点になった火山リスクについて、司法判断は揺れる。

 川内原発周辺の住民らが再稼働差し止めの仮処分を申し立てた16年の福岡高裁宮崎支部決定は火山ガイドを「不合理」と認め、火山の危険性を問題視した。ただ、破局的噴火は極めて低頻度であり「危険性は無視できる」と結論付け、差し止めそのものは退けた。

 17年には広島高裁が伊方原発3号機(愛媛県)の運転差し止めを命じる仮処分決定を出し、理由として巨大噴火リスクを挙げた。その後の異議審で覆ったが、決定当時は川内原発の訴訟関係者にも勝訴への期待を広げた。

 12年に住民らが提訴した川内原発運転差し止めの民事訴訟では今年2月、鹿児島地裁が停止を認めない判決を出す。周辺火山が破局的噴火を起こす可能性は小さいとした九電側の評価を「科学的根拠に基づく」と追認した。

 振り子のように揺れる判断は、司法の限界とも言えないか。

 再稼働差し止めを退けた16年の福岡高裁宮崎支部決定の際、裁判長は、原発の安全性について「社会通念を基準に判断するほかない」と述べ、「絶対的な安全性」を求めることは社会通念上認められないとした。社会通念というあいまいな理由で安全性担保の責任を軽んじれば、そのつけは国民に回る。国や電力会社は福島事故の教訓をいま一度思い起こさねばならない。

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