世界全体でプラスチックによる環境汚染を食い止める国際条約作りに向けスイスで開かれた政府間交渉委員会は、条文案合意を断念した。
2024年内の合意を目指した韓国での前回交渉に続く失敗となったのは、残念だ。ごみ問題の深刻化と裏腹に利害が対立し、会期を延長しても妥協点は見いだせなかった。
ただ、最後に急きょ開いた全体会合では、多くの国が交渉の継続と実効的な条約成立を求めた。危機感を共有しているのは確かだ。世界の共通課題として各国は合意を探る努力を諦めてはなるまい。
条約作りは、2022年3月の国連環境総会で決議した。生産量規制や廃棄物管理の在り方などを議論してきたが、24年11〜12月に韓国・釜山であった5回目会合までに意見の隔たりが埋まらなかった。6回目となるスイス・ジュネーブの会合は、釜山の“延長戦”に位置付けられていた。
最大の焦点は、プラスチックの生産規制だ。環境問題に熱心な欧州連合(EU)や漂着ごみに悩む島しょ国は、生産と消費の削減目標設定など強い規制を求めていた。
一貫して反対してきたのが、サウジアラビアなど産油国だ。石油はプラスチックの原料で、生産規制が導入されれば経済的に悪影響を受けるからだ。
さらに、米国が反対陣営に加わった。トランプ米大統領はバイデン前政権が進めた紙製ストローへの転換を中止する大統領令を出し、プラスチック回帰の姿勢を示す。産業保護を最優先するトランプ政権の再来が産油国側に影響、多国間の協調体制が揺らいだ。
交渉終盤、議長は生産規制に直接言及する部分を削除した条文案を公表し、合意を促した。だが産油国に大幅譲歩したと受け取れる内容は、途上国など多くの国の反発を招く形となった。
日本は中立な立場を取りながら、立場が異なる国々の橋渡しに奔走した。だが、時間切れで役割を果たしきれなかった。
経済協力開発機構(OECD)によると、世界のプラ生産量は1950年の年間200万トンから、2019年には4億6000万トンと約230倍に激増した。リサイクル利用されるのは1割にも満たない。
海洋への流出も深刻で、50年に魚の総重量を超えるとの試算もある。波や紫外線の作用で微細になったマイクロプラスチックは人間を含む生物の環境や健康へのリスクが懸念される。暮らしを便利にするプラ製品だが、自然では分解されにくく膨大なごみとなって汚染を広げている。
根本的な解決には廃棄物の管理だけではなく、生産や使用の削減が肝心だ。条約の合意を待たずに、各国が責任を持ち国内対策を急がねばならない。