社説

[洋上風力撤退]再エネ戦略見直し急務

2025年8月30日 付

 三菱商事を中核とする企業連合が、秋田、千葉両県沖の3海域で進めていた洋上風力発電事業から撤退する。建設費用が4年前の入札時の見込みから2倍以上に膨らみ、採算が合わないと判断した

 政府は、洋上風力発電を再生可能エネルギーの主力電源化に向けた「切り札」に位置付けている。3海域は国内初公募の大規模事業として期待が高かったが、再公募で見直しを迫られる。

 撤退は国のエネルギー戦略に大きな打撃だ。しかし脱炭素の流れを後退させるわけにはいかない。政府は戦略の再考と、事業者が収益を確保できるよう制度の見直しを急いでもらいたい。

 三菱商事連合は2021年に3海域を総取りで落札した。決め手は固定価格買い取り制度(FIT)を利用した売電価格の圧倒的な安さだ。秋田では1キロワット時当たり約12円を提示し、2番目に低い17円に大差をつけた。他業者を驚かせ、国の想定も大きく下回った。

 28~30年に風車計134基の運転を順次始め、52年まで操業する目標だった。だが資材価格の高騰で建設費用が膨らみ、頓挫した。強みだったはずの低価格が結果的に首を絞めた形だ。業界では当初から、採算割れにより実現を危ぶむ声が絶えなかった。見通しの甘さを批判されても仕方あるまい。

 政府は40年度の電源構成に占める風力発電の割合を現在の約1%から4~8%に上積みする目標を立てる。

 洋上風力を切り札と見るのは、国土が狭い日本でも海上に風車を設置することで、強い風を受けて安定的に発電でき、陸に比べて騒音問題も起こりにくい利点があるためだ。24年末時点の計約25万キロワットを、40年までに3000万~4500万キロワットに拡大する方針を掲げる。

 目標達成に向け、領海内に限られていた設置場所を排他的経済水域(EEZ)に広げる改正再エネ海域利用法を今年6月に成立させた。

 販売電力価格の40%を上限にコストの増加分を転嫁できる新制度や、海域の使用期間を現行指針の30年間から延長できる方針も打ち出した。資材高などの向かい風はやむ気配はない。外部環境の激変に対応し、事業者が投資を継続できる支援の再構築が重要だ。

 ただ電気料金に上乗せされると利用者の負担が増える。国や事業者には丁寧な説明が求められる。

 三菱商事連合の撤退では、経済活性化や雇用を期待した地元も大きな影響を受けた。洋上風力に対する社会の信頼を揺るがしたのは間違いない。

 鹿児島県は今年4月、いちき串木野市沖の海域を候補区域として国に情報提供した。適地と判断されれば事業化につながる可能性がある。しかし住民には賛否がある。整備案が浮上したとしても、国や事業者は「地域との共生」との視点を忘れてはならない。

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