社説

[概算要求122兆円]徹底した精査が不可欠

2025年9月3日 付

 国の2026年度予算編成に向けた各省庁の概算要求が出そろった。一般会計の要求総額は122兆円台と見込まれる。25年度要求額より5兆円程度増え、3年連続で過去最大となる。

 長期金利の上昇により、国債の償還と利払いに充てる国債費は32兆円に達し、25年度当初より約4兆円増える。高齢化に伴い社会保障費の増加は歯止めがかからない。物価、人件費の上昇に加え、防衛力強化やインフラ老朽化への対策も求められる。

 国債頼みの野放図な予算の膨張が続けば、財政への信認が揺らぎ、さらなる金利上昇を招くことになる。必要な政策に予算を回せなくなる恐れもある。年末の予算編成に向け徹底した精査が不可欠だ。

 政府は今回の概算要求基準で、重要政策の推進に使う「裁量的経費」について前年度の2割増を要求できるようにした。従来は前年度からの経費節減を求めたが、その制約を外した。経済、物価動向を反映するためという。

 金額を示さない「事項要求」も引き続き認めた。4000億円規模を見込む高校授業料無償化などが対象となり、編成過程で総額は膨らむ可能性がある。

 6月に閣議決定した「骨太の方針」では、財政健全化の指標である基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化の達成時期の目標を26年度に事実上後退させている。

 各省庁は要求しやすくなった半面、財政規律が緩みやすい基準だったと言える。

 加藤勝信財務相は会見で「歳出改革の徹底を図りながら、経済再生と財政健全化の両立を図る」と強調したが、衆参で少数与党となった自公政権が難しいかじ取りを迫られるのは必至だ。

 先の通常国会では、衆参両院の修正を経て予算を成立させるなど野党への譲歩を繰り返した。秋以降、ガソリン税の暫定税率廃止や消費税減税といった野党の要求をある程度受け入れる形で進む可能性が高い。米国のトランプ関税を理由とした経済対策への要求も強まろう。

 経済が停滞したまま世論が期待する「手取りを増やす政策」を進めるには、社会保障費といった歳出を削るか、赤字国債増発、法人税増税などが必要となる。与野党には、財源や厳しい財政事情を念頭に置いた議論を求める。

 国の長期債務残高は3月末で1106兆円。アベノミクスの柱だった日銀による異次元の金融緩和は超低金利を維持し、巨額の国債を発行しても利払い費を抑えてきた。しかし日銀は24年にマイナス金利政策の解除に踏み切った。金利は上昇し続けている。

 参院選で見られたようなばらまき、大盤振る舞いを競い合う状況ではない。「金利ある世界」を意識することを忘れてはならない。

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