社説

[ストーカー検証]危険性軽んじた不誠実

2025年9月6日 付

 ストーカー被害を訴えた川崎市の20歳の女性が殺害された事件の対応を巡り、神奈川県警がおととい、内部検証結果を公表した。危険性・切迫性を過小評価し、安全確保措置や必要な捜査態勢を取れなかったと認めた。

 報告書からうかがえるのは、被害者本人や親族が発してきたサインを軽んじ続けた県警の不誠実な姿勢だ。最悪の結果を招いた責任は極めて重い。

 過去のストーカー事件の教訓が生かされなかった点も猛省すべきだ。警察は県警の失態と矮小化(わいしょうか)してはならない。「被害者の安全確保が最優先」との原点に立ち返り、組織全体の問題と捉えて再発防止に取り組む責務がある。

 事件は今年4月、女性が、元交際相手である男の被告(殺人罪などで起訴)の住宅から一部白骨化した状態で見つかり発覚した。女性は昨年12月から行方不明になっていた。

 女性は昨年6月から川崎臨港署に相談や通報を繰り返し、失踪直前には9回連絡していた。失踪後に署は、被告の親族から殺害の可能性の申告を受けるなど9件の「特異情報」を得た。女性の父親は再三早急な捜査を求め、県警本部にも要望した。だが対応されなかった。無念は察するに余りある。

 報告書によると、昨年11月の復縁の申し出などを理由に、署は県警本部の指導を受けず対応を終了した。トラブルは解決したとの先入観が署内に生じたことを背景に、失踪後もストーカー事案として認知されず、本部との情報共有もされなかった。

 この経緯を踏まえ、構築していた対処体制が形骸化し、連携不十分で機能を発揮できなかったと総括した。危機感の欠如は明らかだ。組織的対処を求める事前の警察庁通達が守られなかった理由は、さらに検証すべきだろう。

 組織的対処が重要なのは、署だけでは危険性を見過ごす可能性があるためだ。全国の警察に寄せられるストーカー相談件数は年2万件前後で高止まりし、現場の負担は少なくない。大半は重大事案に発展することがなく、切迫性を過小評価する恐れがある。

 被害者は加害者に対して特有の心理状況に陥ることがあり、事態が収束したように見えても絶えず状況が変わる。このため専門性の高い本部の担当者が関与して客観的な判断をし、危険性を小まめに再評価することが不可欠だ。被害を未然に防ぐ組織全体の能力を高める必要がある。

 警察庁は検証を受け、都道府県警に「司令塔」として指揮する幹部を置くなどの通達を出した。ただ、被害女性の父親は「体制が変わっても法律が変わっても、(警察官の)人間性が変わらなかったら同じことが繰り返される」と訴えている。幹部から現場の捜査員まで一人一人が、市民の安全を守る存在である自覚を忘れないでほしい。

日間ランキング >