社説

[JR輸送密度]住民巻き込んだ議論を

2025年9月7日 付

 JR九州は2024年度の1キロ当たりの1日平均利用客数(輸送密度)を公表した。地方鉄道の存廃議論の目安として国が示す輸送密度千人未満の在来線区間は11路線12区間あり、指宿枕崎線の指宿-枕崎が216人で最少だった。県内は他に肥薩線の吉松-隼人(501人)、吉都線の都城-吉松(392人)が当てはまった。

 前年度と比較可能な55区間のうち51区間の輸送密度が増えた。JR九州が「訪日客や新型コロナウイルス禍以降の移動需要が堅調」と説明する中、指宿-枕崎、都城-吉松を含む4区間で減少したのは残念だ。

 指宿-枕崎はコロナ前の19年度が277人、その後は255人、240人、220人、222人、216人と漸減傾向にある。24年夏に任意で鉄道の在り方を検討する会議が発足し、沿線を含む関係者が改めて鉄道の価値を認識する取り組みを進めている。問われているのは持続する地域づくりの中での鉄道の位置付けだ。住民も巻き込んだ議論を活発化してほしい。

 肥薩線の吉松-隼人は19年度605人が20年度以降、400人台に落ち込んだ年もあったが、やや戻した。ただ8月8日の記録的大雨で山間部の線路の土台が50メートルにわたり崩壊し、運休せざるを得なくなった。JRによると、取り付け道路がなく資材運搬が難しいため「年内の復旧は困難」という。

 熊本県の八代と隼人をつなぐ肥薩線は20年の熊本豪雨で八代-吉松が運休中だ。八代-人吉の通称「川線」は33年度ごろの鉄路復旧が決まっている。一方、人吉-吉松の通称「山線」は本格的協議さえ始まっていない。

 唯一の運行区間だった吉松-隼人も運休となり、沿線自治体や関係者の落胆と不安は計り知れない。川線とともにこのまま廃止になるのではと考える人もいるだろう。JRは今後の見通しを含め随時丁寧に説明すべきだ。

 当面の措置として9月1日から代替バス運行で通学通勤の足を確保した。平日のみ計9便の予定を、沿線の要望を受けて事前に11便に増やした。状況次第で1便当たりの台数や停車駅は調整していくとする。利用者の立場での柔軟な対応を続けてほしい。

 過疎地の山間部は治山治水が行き届かない点は否めない。JR九州の古宮洋二社長が、管理外の土地に起因する被災に対しては「自社での対策が限られる」と指摘するのもうなずける。

 近年の異常気象をみれば、いつどの区間が被災してもおかしくない。県外では被災を機に存廃議論が本格化した例もある。沿線が鉄路を望むなら、まずやるべきは「マイレール意識」を持って乗り続ける住民の機運をより高めることだろう。JRと連携した鉄道周辺の災害対策への目配りも一層強める必要がある。

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