自民党総裁である石破茂首相が、退陣の意向を表明した。「石破降ろし」の動きが広がり、行き詰まった。
参院選で大敗してから約50日、見せられたのは何だったのか。「自民不信」の責任を押しつけ合う国民不在の政争劇だ。
首相の続投を巡る混乱で政治の停滞が続いた。新総裁が決まるまで空白はさらに長引くこととなる。国民があきれているのは、この間自民が変わろうとする姿が一向に伝わってこないことだ。次期総裁選は責任ある与党として、参院選総括で打ち出した「解党的出直し」の一歩としなくてはならない。
与党は7月の参院選で約30年ぶりに衆参とも少数になった。石破首相は、参院選で自民、公明両党による非改選を含む過半数確保を「必達目標」としてきた。だがそれを逃す与党大敗を受けても「政治空白をつくるべきではない」と続投に執着し続けた。
自民内の駆け引きは激化。きょう8日は、総裁選前倒しの是非について所属国会議員や地方組織の意思確認が予定されていた。事実上の「退陣勧告」である臨時総裁選実施に必要な、過半数に達する勢いとなっていた。党の分断回避の圧力が強まり、自ら身を引く形を取るしかなかったのだろう。
報道各社の世論調査では8月の内閣支持率が上昇。執行部側は手続きに時間をかけ、石破降ろしの沈静化を狙った。総裁選前倒しを求めた議員名を公表する「踏み絵」を迫り、衆院解散もちらつかせたが、逆に対立の激化を招いた。石破首相や党執行部の判断が遅すぎた、との批判は免れない。
石破氏は昨年10月に就任し、在任期間は間もなく1年となる。党内野党と目され歯に衣(きぬ)着せぬ発言や、地方創生へのこだわりに人気があった。その「石破らしさ」を発揮できなかったのは、首相自ら省みた通りだ。
国会での丁寧な論戦や、党派を超えた「熟議」の在り方を模索したことは評価できる。ただ党内の基盤が弱く「党内融和」のくびきから逃れられなかったのか。
総裁選で掲げた日米地位協定改定や選択的夫婦別姓などの持論は封印した。自民の政治とカネ問題の究明やその温床となった旧派閥からの脱却は、中途半端のままだ。
「ポスト石破」を巡っては、昨年の総裁選で首相と争った高市早苗前経済安全保障担当相や小泉進次郎農相が軸になるとみられる。国民が納得する政策推進や政治改革を提起できるかどうかが、問われる。
次期総裁が首相に選出される保証はない。安定した政権の枠組みをどう描いていけるのか。自民は岐路に立つ。