およそ5カ月弱にわたった米国との関税交渉が一つの区切りを迎えた。
米国が日本車にかける関税は4月発動した追加関税25%を半減し、既存の2.5%と合わせて15%にする。幅広い品目にかかる「相互関税」の軽減措置も導入する。今月4日にトランプ米大統領が署名した大統領令が9日付の官報に記載され、16日までの実施が確実になった。
この内容で7月に日米合意していたが、8月の発動時に適用されず混乱。日本は履行を再三求めてきた。今回の署名で膠着(こうちゃく)状態を打破できたのは前進だが、交渉相手は常識で測れないトランプ政権である。不確実さへの警戒を怠らず、合意がほごにされる事態には政府は毅然(きぜん)と対処するべきだ。
関税交渉を巡り、4月半ばに初の日米閣僚協議に臨んだ赤沢亮正経済再生担当相の訪米は10回に及んだ。交渉努力は評価できるのではないか。
自動車関税の引き下げにより、日本の基幹産業へのダメージは緩和される。ただ15%という数字は以前の税率2.5%の6倍に跳ね上がる高税率だ。
業界はコスト削減だけでなく開発や生産体制、販売戦略の見直しを避けては通れまい。中小企業の経営や雇用に悪影響が広がらないか、注視していかなければならない。
医薬品や半導体については、最も低い国の関税率を日本に適用する「最恵国待遇」が7月の合意に入ったが、今回の大統領令には記載がなかった。こちらの履行も求めていく必要がある。
以上の分野別関税とは別に、8月から一律15%が上乗せされてきた相互関税には、負担をある程度軽くする特例措置が導入される。従来の関税が15%以上の品目には上乗せをやめ、その税率を維持。一方、15%未満だった品目は一律15%となる。
例えば米国が4月に相互関税を導入する前は26.4%だった牛肉は8月にいったん41.4%に上がったが、特例措置により元に戻る。逆に、従来無税だった緑茶は15%課税が続く。鹿児島で盛んな農畜産業でも明暗がある。生産者の不安が少しでも払拭されるような行政の支援体制を望みたい。
また日米両国は、日本からの5500億ドル(約80兆円)の対米投資の詳細を定めた覚書も結んだ。米側の投資委員会が選んだ投資先を推薦し、トランプ氏が最終的に決めるという。「米国に都合の良い取り決め」との見方もある。巨額の対米投資を明示する文書作成も、日本は避けたかったが、押し切られた。譲歩を迫られる場面が今後も予想され、火種がくすぶる。
関税を巡る石破政権の“積み残し”が新政権には委ねられる。そもそも自由貿易体制を揺るがす前代未聞の関税措置の見直しを他国と連携して求めていく努力も、忘れてはなるまい。