イスラエルがイスラム組織ハマス幹部の拠点を標的として、カタールを空爆した。カタールは米国などと共にパレスチナ自治区ガザの停戦交渉の仲介国である。
ガザ停戦へ向けてトランプ米政権が新たな提案をハマスに示した直後の攻撃だった。関係国の外交努力を踏みにじる暴挙は許しがたい。停戦交渉を巡る情勢は一層不透明になった。
親イスラエルの立場を見透かされたトランプ大統領は止められず、恥をかかされた格好だ。イスラエルの強硬姿勢は、制御不能になりつつある。
カタールの首都ドーハにはハマス政治部門の拠点があり、ハマス幹部らは空爆された建物で新たな停戦案を協議していたとされる。交渉団トップのハイヤ氏は無事とみられるが、メンバー5人が死亡。カタール治安部隊要員1人も犠牲になった。
イスラエルはエルサレムで8日に6人が死亡した銃撃テロ事件への報復であると示唆した。ネタニヤフ首相は、ハマス幹部らの排除は「ガザでの戦闘終結につながる」と正当化した。
ネタニヤフ首相は、対パレスチナ強硬派を抱える政権の安定のため、戦闘を続けていると指摘される。ハマス幹部を殺害し、成果を誇示できると計算したのは間違いない。はなから交渉する意欲はなく、戦闘継続を望んでいるのではないかとの疑念は膨らむ。
カタールは「国際法違反の犯罪行為だ」と猛反発した。カタールへの主権侵害は明らかで、中東や日本、欧州の各国が一斉に非難したのは当然だ。
国連安全保障理事会は11日、イスラエルの名指しを避けた上で、空爆を非難する報道声明を発表した。トランプ米政権も同意し、イスラエルへの不満を高めていることが鮮明になった。
カタールには中東最大の米軍拠点が置かれている。重要な同盟国でイスラエルに虚を突かれ、トランプ氏は止めるには「遅すぎた」と弁明するしかなかった。米国には軍事支援見直しを含め、毅然(きぜん)とした対応が迫られている。
今回のガザ戦闘の引き金はハマスによる2023年10月の大規模テロだった。しかし、ガザ側死者は既に6万5000人近く、飢餓も深刻だ。たとえハマスを壊滅させても、現在の強硬策の下で反イスラエル感情を根絶できるはずはない。
今月下旬からの国連総会に合わせ主要国がパレスチナ国家を承認する動きがある。「2国家共存」への模索をあきらめてはなるまい。
折しもロシアの無人機が北大西洋条約機構(NATO)加盟国ポーランドの領空に侵入し、各国に強い緊張をもたらした。各地で国際的なルール無視が横行しつつある。米政権の影響力低下が表れているのではないか。深く憂慮する。