社説

[ウナギ規制案]消費国の責任果たして

2025年9月14日 付

 日本人が慣れ親しむウナギ料理が大きな岐路に立たされている。

 ワシントン条約事務局は食用のニホンウナギをはじめとするウナギ全19種について、絶滅の恐れがある種になる可能性があり、条約への掲載基準を満たすとの暫定評価を発表した。欧州連合(EU)が6月に提案した規制強化案の妥当性を認める内容だ。

 国際取引が規制されれば稚魚(シラスウナギ)や、かば焼きの流通が滞ることが予想される。価格の上昇は必至で、養殖生産日本一の鹿児島県にとって影響は大きい。日本政府は「ニホンウナギの資源量は十分確保され、絶滅の恐れはない」と反発している。世界最大規模の消費国としてしっかり説明責任を果たす必要がある。

 条約は規制対象を「付属書」に記載する。今回のEU提案は、取引は可能だが輸出国の許可書が必要な「付属書2」の対象にすべきだとしている。

 この背景には、ヨーロッパウナギが既に規制対象にもかかわらず、ニホンウナギと偽って密輸されている実態がある。見かけでは判別が難しい他種にも縛りをかけることで密輸に歯止めをかけたい思惑も働いているようだ。

 不透明な取引は日本にとっても対策が迫られる。

 国内で販売されたかば焼きのDNA分析で、約4割がアメリカウナギだったという調査結果が出た。カナダなどで捕獲された北米原産種の稚魚が、香港を経由して中国で養殖。「中国産」になって加工品や生きた状態で輸入されているようだ。ウナギを大量消費し、国内供給量の約7割を輸入する日本が、違法な漁業を支えている事実を放置するわけにはいかないだろう。

 稚魚の不透明な取引や漁が常態化している疑いを示す水産庁の漁獲量データもある。養殖ウナギの番号制といったトレーサビリティー(生産流通履歴)の強化も進めたい。

 11~12月に開かれるワシントン条約締約国会議でEUの提案が採択されれば規制強化となる。稚魚の県内採捕量の不足分を県外産や輸入で補っている鹿児島の養殖業者は「経営が成り立たなくなる」と危機感を募らせる。

 国際自然保護連合は2014年、ニホンウナギを絶滅危惧種に指定した。稚魚の乱獲を防ぐため、日本は中国、韓国、台湾と共同で行う資源管理を主導してきた。提案否決に向けて国際社会の理解を得るためにも、資源管理の実効性を高める努力をアピールしなければならない。

 日本は卵から人工ふ化させる「完全養殖」の技術を持つ。資源保護策としての切り札ともいえるだろう。商業化にはコストや生産安定性の課題が残る。研究開発を支援し、持続的供給につなげることも国の役割である。和食文化を守る主体的な姿勢を示したい。

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