都道府県ごとの最低賃金(時給)改定額が出そろった。全国平均は過去最高の1121円、66円の引き上げ額も過去最大だった。鹿児島は73円増え1026円で、初めて千円を超えた。
政府は「2020年代に全国平均1500円」の目標を掲げており、今後も賃上げの動きは続くとみられる。働き手の生活向上や人材の県外流出防止が期待される一方、経営側の負担は大きい。
原材料高や人手不足が直面する中小企業に対し、国や県がきめ細やかに支える番だ。生産性を高め、もうかる体質へと変化するための「稼ぐ力」を強くする対策を特に後押ししてほしい。
39道府県が国の示した引き上げ額の目安を超えた。鹿児島も9円上回った。政府による異例の「目安超え」要請に加え、人材流出を防ぎたい地方の危機感が表れたといえる。
毎年度改定される最賃は、働き手の暮らしを守るための仕組みである。労働者の生計費、賃金、企業の支払い能力を根拠に決めるのが原則。労働者への支払いが最賃を下回ると、雇用主に罰金が科される。過度な賃上げ競争によって、最賃を達成できない企業が続出しては本末転倒だ。
働き手の生活改善への意欲は理解するが、賃金や雇用の実態に即していないとの指摘もある。決定プロセスの見直しも含め、議論を深めることが必要だろう。
日本商工会議所の小林健会頭は「上げること自体は反対ではない」とした上で、「地方で(商業インフラの)破綻が起きる可能性がある」と過去最大となる引き上げ幅に懸念を示す。
九州は数年前まで「福岡1強」が続いていた。3年前の22年度改定では福岡が900円。ほかは50円弱の差でほぼ横並びだった。だが、近隣県との格差を意識してか福岡に近い県ほど上乗せ額が高くなる傾向が見受けられる。
今回は熊本が全国最高の82円、大分が81円を引き上げ、福岡との最賃をそれぞれ23、22円差まで縮めた。鹿児島は31円差、宮崎、沖縄は34円差となり、「北高南低」の傾向が強まった。
鹿児島の最賃額は3年で173円上がることになるが、最下位の宮崎、沖縄、高知3県に続く全国44位。1位東京の1226円との差はやや縮まるとはいえ、200円ある。
経済産業省は(1)価格転嫁対策(2)補助金(3)生産性向上-の3本柱で中小企業への支援を強化する方針だ。
他県では事業者に独自の助成金制度を設け増額を後押しする動きがある。塩田康一知事は定例会見で「経営努力の中で賃金上昇を図るのが基本。一律の現金支給が合理的とは思わない」と語った。では、どのような後押しをしていくのか。開会中の県議会9月定例会で、議論を深めてもらいたい。