佐賀県警のDNA型鑑定不正問題で、警察庁が特別監察に踏み切った。内部調査に基づく県警の説明が説得力を欠き、第三者機関による検証を求める外部の声がやまないことを重く見た対応である。
警察庁としては厳しい姿勢を示し、世論の理解を得たい思惑がある。しかし県警による事案公表から1カ月たち、後手に回った感は否めない。
監察には同庁付属機関である「科学警察研究所」のDNA型鑑定の専門家を派遣した。ただ警察組織内部の調査という実態は変わらず、公正さを欠くと指摘されても仕方がない。刑事司法と科学捜査への信頼を取り戻すには、独立性のある第三者による徹底的な検証を行う必要がある。
県警は9月、科学捜査研究所(科捜研)の40代職員が、実際にはしていないDNA型鑑定を実施したように装う報告や書類の日付改ざんなどを行っていたと公表した。「上司に仕事を早く終わらせたと思わせたい」などが動機という。不正は2017年から7年超で130件と異例の規模に上り、うち16件は殺人未遂や不同意わいせつなどの証拠として検察庁に送られていた。
DNA型鑑定は全国で年間約25万件実施される「科学捜査の要」だ。捜査が自白偏重から客観証拠重視に転換し、重要な手法として確立してきた中で起きた前代未聞の不祥事である。県警は職員を懲戒免職処分とし、虚偽有印公文書作成・同行使などの容疑で書類送検した。ただ7年間不正を見逃したのは組織の重大な失態と言うほかない。
不正発覚後の県警の対応は不信に拍車をかけた。再鑑定を行い「捜査や公判に影響はなかった」としたが根拠は不透明で、幕引きを図るように再発防止策を早々に定めた。福田英之本部長が初めて公に説明したのは公表から9日後の県議会。陳謝の一方で「第三者的な立場の県公安委員会」が確認したなどと主張し、県議会が求める第三者の調査を明確に否定した。
その後も具体的な答弁を避ける福田氏と県警の姿勢に対し、県議会は態度を硬化させた。情報公開について「丁寧さを欠き不十分」と批判し、第三者調査を求める決議を全会一致で可決させ、対応を迫った。
日本弁護士連合会や県弁護士会も同様の声明を出している。福田氏は「捜査に関することが含まれ守秘義務が生じる」と述べ、外部機関の調査はそぐわないとの見解だが、第三者に守秘義務を課せば調査は可能ではないか。
適正な捜査手続きを行わずに多くの冤罪(えんざい)を生んだ歴史がある。特別監察は不祥事が続いた鹿児島県警に対しても昨年行われたが「新しい内容は何も出なかった」と批判された。厳正な監査を実施しなければ国民の不信はさらに深まると自覚すべきだ。