社説

[ガザ人質解放]恒久和平へ歩み進めて

2025年10月15日 付

 パレスチナ自治区ガザの停戦を巡り、イスラム組織ハマスが生存する人質20人全員を解放し、4人の遺体を引き渡した。イスラエル側は引き換えとして、拘束するパレスチナ人約2000人を釈放したと発表した。

 人質解放は、9月末に米政権が示したガザ和平計画の「第1段階」の主要項目だった。停戦の維持へ向けハードルを一つ越えたことを歓迎したい。

 トランプ大統領の半ば力ずくとも言える積極的な働きかけが功を奏した形だ。イスラエル、ハマス双方には、恒久的な戦闘終結と和平実現に向けた歩みを着実に進めることが求められる。

 停戦に至った背景にはハマスの弱体化がある。幹部を次々に暗殺され、人道危機の深刻化でガザ住民の反発も強まった。関係の深いトルコや交渉仲介国カタールからの強い圧力も受け、人質解放という最後の交渉カードを切らざるを得なかった。イスラエルも、ハマス幹部を狙ったカタールでの空爆が、後ろ盾の米国の反感を買っていた。

 20項目からなる和平計画において、トランプ氏が柔軟姿勢に転じた影響も大きい。これまでのイスラエル一辺倒から現実路線に方針を変えた。イスラエルによるガザ占領・併合の禁止を明記。2国家共存については、米国が「対話を構築する」として、曖昧ながら「共存」に踏み込んだ。

 いずれもアラブ諸国の意向を強く反映した。双方ににらみを利かせつつ、硬軟織り交ぜて息詰まる現状を突破したのはトランプ氏の手腕だろう。

 ただ、今後の交渉の焦点はハマスの武装解除やイスラエル軍のガザ撤退など和平実現に向けた難題に移る。ガザの統治はトランプ氏がトップを務める移行的な行政機構が監督するとされるが、自らが排除されることをハマスが容易に受け入れるとは考えにくい。

 ガザにはまだ24人の遺体が残り、全ての引き渡しには時間がかかる可能性がある。イスラエルがこれを「合意違反」とみなし、攻撃を再開する可能性はくすぶっている。ネタニヤフ氏が連立を組む極右政党の動向も不透明だ。

 人質解放後にイスラエルが攻撃しないとの保証に関してトランプ氏は「あらゆる措置を講じる」と断言した。この2年の戦闘で停戦合意は2度崩壊しており、繰り返してはならない。トランプ氏に対して関係国には、人質解放を区切りとみて急速に関心を失わないかとの懸念がある。発言の責任の重さを自覚してもらいたい。

 一方、エジプトで開かれた和平を巡る会合で、米国やカタールなどが停戦合意の完全な履行を求めるとの宣言文書に署名した。20カ国以上の首脳が並ぶ中、日本は駐エジプト大使の参加だった。国内政治の混乱の影響だとすれば、中東和平に対する日本の存在感や熱意を示す機会を逃したと言える。

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