社説

[新聞週間]信頼される記事届ける

2025年10月16日 付

 世界各地で自国第一主義や排外主義が台頭し、国内政治は先の参院選から3カ月近くたっても混とんとしたまま針路が定まらない。物価高は止まらず、各地で異常気象や災害が続く。

 先行きが見通せない中、新聞週間が始まった。今年の代表標語は「ネット社会 それでも頼る この一面」。全国から寄せられた1万857編から選ばれた岐阜県の中学生・村山心菜さんの作品である。「インターネットは特定の情報しか知り得ない。新聞はさまざまな情報に触れられ、信頼性や正確性もあるとの思いを込めた」という。

 多様なメディアが日々発信する情報は玉石混交である。信頼できる情報を届ける報道機関の責任は増している。参院選や昨年の兵庫県知事選、衆院選で顕在化したように、「マスコミが報じない情報こそ真実」とみなす世論もある。誰もが発信者になれるネット上の言説は、情報の真偽よりも「受け手にとって快か不快か」が取捨選択の基準になっていると専門家は指摘する。これでは誤情報や意図的につくられた偽情報が選挙結果を左右しかねない。

 批判に耳を傾け、読者ニーズに応える魅力ある紙面づくりができているか自問を繰り返し、新聞のあるべき姿を追求していきたい。

 ネット社会が急速に拡大しても、新聞の信頼性への期待は薄くない。総務省が6月に発表した情報通信メディアの利用状況調査によると、「メディアとしての信頼度」では、新聞が59.9%で最も高く、テレビ58.2%、インターネット27.0%と続いた。

 新聞記者は日々、キーパーソンや当事者に会って話を聞くことで情報を得る。複数の取材源に当たり、裏付けとなる資料や文献を入手して何重にも確認。さらに編集、校閲など複数の目でチェックする。こうした基本を今後も愚直に続けるしかない。

 今年は霧島市や姶良市の大雨被害、十島村の群発地震、新燃岳噴火など災害が相次いでいる。記者たちは被災者との距離感に気を配りつつ寄り添い続ける。「被災者の数ではなく、一人一人の人生に注目して伝えて」という本紙紙面モニターの提言もかみしめ、被災の実相を伝える取材に努めていく。

 先週発表した「戦後80年所感」で石破茂首相は、先の大戦で開戦を止められなかった理由の一つとして、新聞が商業主義に走り世論をあおったことに言及。「使命感を持ったジャーナリズムを含む健全な言論空間」や「強靱(きょうじん)な民主主義」の必要性を挙げた。そして、過去を直視する勇気と誠実さ、他者の主張にも謙虚に耳を傾ける寛容さなど歴史の教訓を胸に刻む大切さを訴えた。

 真摯(しんし)に受け止め、新聞に課せられた「権力の監視」という役割の重みを考える機会としたい。

日間ランキング >