2025年の鹿児島県内へのクルーズ船寄港回数が15日に157回となり、これまでの年間最多を更新した。マリンポートかごしまと本港区北ふ頭を持つ県都鹿児島市の鹿児島港が112回(15日現在)と全体の7割を占める中、ほかの港も寄港方法を工夫し、新たな可能性も見え始めている。
寄港に伴う経済効果を県内隅々まで行き渡らせるとともに、各寄港地がそれぞれの魅力を発揮してリピーター獲得につなげていきたい。
鹿児島港は従来の記録だった108回を超え、年間128回を見込む。離島ではコロナ前から実績のある奄美市の名瀬港(19回)、屋久島町の宮之浦港(10回)に続き、西之表市の西之表港(5回)が健闘する。昨秋、外国航路の船舶入港に必要な保安対策を講じ、国際クルーズ船が入れるようになった。今後の伸びしろは大きい。
薩摩川内市の甑島に6回寄港したのは興味深い。クルーズ船に多い十数万トン級どころか数千トン級の船でさえ接岸できる岸壁は島内にはない。このため沖合に停泊し、テンダーボートと呼ばれる付属の小型船に乗り換え、近くの港に上陸する。自然を好み、新しい観光スポットを求める富裕層向けの試みである。地元漁協などの理解が大前提だが、立派な港湾施設がなくても受け皿になれる参考例だろう。
県本土でも指宿市の指宿港に7月、9年ぶりにクルーズ船が入った。こちらもテンダーを使っての上陸だった。マリンポートに寄港した場合の南薩方面の観光は、移動時間が長く駆け足になりがちだ。目的地近くへの乗り入れなら、何カ所も周遊する時間が確保できる利点がある。飲食や購買による地元への直接効果も小さくない。
大隅半島や県央地域も可能性はある。鹿屋市の鹿屋港や霧島市の隼人港沖に停泊してテンダー方式を取れば、じっくりと域内の観光資源を巡る多様なツアーが提案できそうだ。
県もクルーズ船効果を波及させようと、寄港地ツアーの広域化を進める。飛鳥Ⅲがマリンポートに入った今月初め、乗船客が新幹線と肥薩おれんじ鉄道を使って出水市を訪ねたツアーでは費用の一部を助成した。
受け入れ先が各地に広がるとはいえ鹿児島の核はマリンポートだ。事実上の観光専用ふ頭としてCIQ(税関、出入国管理、検疫)が整い、ボランティアを中心にもてなしのノウハウが蓄積されている。本土最南端の地理的要因もあり、寄港地に選ばれやすい。
好条件に慢心せず、最新の地元情報発信や2次交通充実を図り、いつ来ても「安定した満足感」を得られる港にしておくべきだ。県は観光振興基本方針に29年度の「再訪希望100%」を掲げる。寄港増で増えた旅行者に再び来てもらうための策を練りたい。