自民党の高市早苗総裁がきのう衆参両院本会議で第104代首相に選出された。およそ四半世紀パートナーとなってきた公明党の連立離脱後、新たに日本維新の会と連立を組む急展開で、新政権の発足にこぎ着けてみせた。
「今、何となく世の中に広がっている不安を希望に変えていこう」と繰り返し訴えてきた。政治の安定へ、一歩を踏み出したといえる。
女性として史上初の首相の誕生は歴史的ではある。自民議員に多い世襲でもなく、今までにない刷新感への期待は高い。
自民、公明両党はこの1年間にあった衆院選、参院選で大敗し少数与党に転落した。「自民1強」時代を続けた故安倍晋三元首相の路線継承を掲げる政界きっての保守派論客、高市氏なら「保守票を取り戻せる」との思惑が総裁に押し上げたのは間違いない。
ただ自公両党が過半数割れに追い込まれた要因は、保守派離れだけではない。派閥の裏金事件への反省がうかがえず、有効な物価高対策も打ち出せない、既存政治への不信だったことを忘れてはならない。
自民が維新と交わした「連立政権合意書」は、政治の信頼を取り戻す方策に乏しい。一方、憲法9条改正に向けた準備の加速やスパイ防止関連法制定、外国人規制の強化など保守色が鮮明だ。
政権運営には国民の幅広い信頼が欠かせない。排他的な政策に走らず、社会に分断を生まない政治を求めたい。
連立合意は、公明の連立離脱で窮地に立たされた高市氏と、党勢低迷の打開を図りたい維新の利害の一致による。党利党略による数合わせ優先で、連携は盤石とはいえない。
■「ブレーキ役」不在
首相指名で立憲民主党など野党の足並みがそろわず、高市新総裁は次の首相になると見込まれてきた。しかし自公関係の混乱で日程がずれ込んだ。結局、公明が離脱し首相指名が見通せなくなる事態に陥った。
公明は、裏金事件の実態解明や政治資金制度改革が進まないことにいらだちを強めていた。裏金問題を「決着済み」として高市氏がけじめをつけなかったことを機に、自民に見切りをつけた。結果、「ブレーキ役」は不在となった。
自民では安倍氏が銃弾に倒れた後、旧安倍派を中心に旧統一教会(世界平和統一家庭連合)とのつながりが暴かれ、裏金問題が発覚した。交流サイト(SNS)の普及もあって膨らんだ右派は、参院選で参政党などへ流れたとの見方が根強かった。
参院選の総括では政治とカネを巡る不祥事などで信頼喪失を招いたとして「解党的出直し」を掲げていた。結局、政治改革は先送りのまま、保守回帰で党勢回復を急ごうとしているかのようだ。
立憲民主党など野党にとっては近年まれに見る政権奪取の好機だったのに、統一候補を立てられなかった。立民、維新、国民民主党の3党首会談もあったが、基本政策の違いばかりが際立った。政権交代への本気度に疑問符が付いたのも事実だ。
今後、各党が個別の政策実現を優先し、与党との個別交渉に走る可能性がある。「手柄争い」では野党の分断は深まり、自民を利するだけだ。野党の存在感が一層問われる。
■急がれる経済対策
連立枠組みが変わっても少数与党が続くのは変わらず、高市首相には厳しいかじ取りが待ち受けている。参院選から3カ月。物価高騰が賃金上昇の勢いを上回る中で、政治空白によって停滞した経済政策の取りまとめが急がれる。
その一つがガソリン減税の早期実現だ。高市氏は「責任ある積極財政」を掲げ、赤字国債の増発を容認する方針を示してきた。ただ巨額の対策に踏み切れば先進国で最悪の財政状態が一段と悪化する恐れがある。維新は政府の効率化に向けた取り組みを促しており、意向がどの程度反映されるかも焦点だ。
自維合意で掲げた、衆院定数の1割削減には、地方の要望や少数意見が切り捨てられる不安がぬぐえない。国会で与野党が定数も含め選挙制度を巡る論議を継続中にもかかわらず2党だけで進めるのは乱暴というほかない。
「初の女性首相」といっても、ジェンダー格差の解消は遠のきかねない。選択的夫婦別姓に反対で、連立合意では旧姓使用の法制化を図る方針を示した。女性を閣僚に抜てきするとの見方が出ていたが、結局、閣僚入りした女性は2人にとどまったのも期待外れだった。
政治を前に進める責任は、与野党ともにある。各党は選挙に有利かどうかで、目先の政策を競っているように見える。国民に将来の課題を丁寧に説明し、幅広い合意形成を図りながら信頼回復に努めてほしい。