自民党と日本維新の会の連立政権が掲げる「衆院議員定数1割削減」が、あまりに拙速だと波紋を広げている。関連法案を議員立法でこの臨時国会(12月17日まで)に提出、成立させる目標を合意文書に明記した。維新の主張を自民が丸のみした形だ。
選挙制度の変更については大所高所から議論を尽くし、幅広い政党の合意を取り付けるべきなのに、特定の政党間だけで進めようとするのは傲慢(ごうまん)と言わざるを得ない。
人口減少が進む地方の声をすくい取り、国政へ正確に反映できる制度であることが肝心だ。
「身を切る改革」を旗印とする維新にとって議員定数削減は「一丁目一番地」だ。109あった大阪府議会の定数を79まで減らし学校給食無償化などを実施した“成功体験”がある。国政でも再現したい、との思惑が透ける。
仮に衆院議員の定数1割削減が実行されれば、現行定数465(小選挙区289、比例代表176)が約50議席減ることになる。これに対し、地方の首長たちは首をかしげる。
九州市長会会長を務める大西一史・熊本市長は「少数の声が届かないのでは」と懸念を示し、鹿児島県の塩田康一知事は「慎重に議論してほしい」と要望した。都市と地方の人口格差は広がり、「1票の格差」を是正するため昨年衆院選で実施された小選挙区定数「10増10減」では東京や神奈川など5都県で計10増える一方、宮城や岡山、長崎など10県で1ずつ減らした。地方に配分される議席が一層減少するのではないかとの心配はもっともだろう。
今回削減対象として有力視されている案は比例代表の議席だ。こうなると小選挙区での当選が難しい小政党は窮地に陥る。多様な民意をくみ取ろうと比例代表を設けた目的に反するのも明らか。多党化時代に逆行している。
自民の内部でも慎重論は強い。今年1月の初会合開催後、断続的に会合を開いている「衆議院選挙制度に関する協議会」の逢沢一郎座長は、既に与野党で進む「真剣な議論」を踏まえた上での協議であってもらいたい、とくぎを刺した。
現行定数への制度変更もトータルで4年半以上かかった。今回、民主主義の土台に関わる議論を約2カ月で結論付けることの是非も問われよう。仮に法案が提出されても激しい与野党対立を招くのは必至だ。
ただ、維新の側としても実現性は乏しいとみているようだ。落としどころが難しい企業・団体献金に焦点が当たらないために持ち出した、との見方もある。物価高対策をはじめ内外の課題が山積するなか、優先順位が高いとは思えないテーマに審議時間を費やすことに、有権者の納得と共感を得られるとは思えない。