【翔べ和牛 産地はいま④】ITが変える畜産の現場 牛の異常はセンサーが感知しスマホに通知 事故死8割近く減る

2022/03/07 11:13
スマートフォンで牛の体温変化を確認する中山高司社長=2月27日、鹿屋市串良
スマートフォンで牛の体温変化を確認する中山高司社長=2月27日、鹿屋市串良
 和牛農家の後継者が農業法人に就職するケースがここ10年、鹿児島県内で増えている。先進の技術やノウハウを学ぶのが大きな理由のようだ。

 大規模経営の現状を見たくて、鹿屋市の農業法人「うしの中山」を訪ねた。繁殖農家から子牛を買い付け、大きくする肥育を専門にしている。飼養頭数は県内屈指の4800頭。従業員25人で世話をする。

 1人が約200頭を受け持つ計算だ。自動給餌機や情報通信技術(ICT)を取り入れるなど随所に省人化の工夫を凝らす。中山高司社長(70)は「午後5時すぎには作業が終わり、残業はほとんどない」と胸を張る。

 中山さんがスマートフォンに目を落とした。牛の異状を知らせる通知が届いていた。「様子を見てきて」。そばにいた従業員に指示した。

 同社では牛の体内にセンサーを取り付け、体温をスマホで逐一確認できる。体調や動きの変化にいち早く気づけるようになり、事故死が8割近く減った。

 今夏には事故リスクのある牛を見つける無人ロボットや、人工知能(AI)を使った肉質予測の実証試験に取り組む予定だ。

■助っ人

 「お疲れさまです」。インドネシア人従業員のワンディ・スラエマンさん(22)が笑顔で声をかけてきた。

 両親が牛農家で、日本の技術を学ぶため1年前から働く。毎朝、健康状態を見て回り、餌のわらを与えるのを任されている。流ちょうに日本語を話し、昨年末にはフォークリフトの免許も取得した。

 従業員25人のうち8人が外国人。地方の慢性的な人手不足、若者の農業離れを補う。勤勉さや能力の高さから信頼も厚く、「日本人より高給取りもいる」と中山さん。

 機械化が進んだとはいえ、生き物相手の仕事だけに人の目はやはり欠かせない。規模拡大を進める上で、ワンディさんら外国人は心強い存在だ。

■小さい利幅

 県内の和牛生産は今、「うしの中山」のような大規模経営が主流になっている。

 10年前に比べ、農家の戸数が減ったにもかかわらず、逆に飼養頭数は増えている。2021年畜産統計によると、全体の4%にすぎない200頭以上の大規模農家が、頭数では半数を占める。かつて主流だった少頭飼いの家族経営が淘汰(とうた)されていることを意味する。

 特に肥育農家で顕著だ。子牛の購入から出荷まで2年近くを要し、海外頼みの餌代をはじめ経費がかかる。利益率が2%程度と小さく、スケールメリットを生かした経営に移行せざるを得ない事情を抱える。

 鹿児島の農業は全国2位の産出額を誇る一方、もうけを示す所得率は最下位に低迷する-。高コストの和牛生産の実態そのものだ。

 中山さんは将来的に2.5倍の1万2000頭まで規模拡大する目標を掲げる。「産地が生き残っていくには、この道を真っすぐ進んでいくしかない」。決意は固い。

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