和牛市場に奇妙な現象 流通するのはサシたっぷりの最上位「A5」ばかり 値段も手頃な「A3」は奪い合い…なぜ?

2022/03/31 11:07
「肉の名門 島田屋」で扱う和牛肉のブロック。等級の高い肉が年々増えているという=鹿児島市上本町
「肉の名門 島田屋」で扱う和牛肉のブロック。等級の高い肉が年々増えているという=鹿児島市上本町
 エプロン姿の男性がユーチューブ動画で語りかける。「今月はすき焼きです。肉のおいしさをまず確認しましょう」。薄切りの霜降り肉をさっと焼いてみせ、溶き卵にくぐらせて頰張った。「う~ん」。表情豊かに味を表現する。

 男性は鹿児島市の老舗精肉卸「肉の名門島田屋」の島田秀樹社長(54)。コロナ禍で販路を広げようと、毎月定額で肉料理の食材を宅配するサブスクリプションサービス「魔法のにくスク」を昨年5月に始めた。自らPR動画に出演し、調理のコツを説明する。

 月1万円(年間契約の場合)で、ローストビーフやハンバーグなどの材料を一式届ける。鹿児島産和牛と他県産ブランド牛の食べ比べといった採算度外視の月もあり、お得感を打ち出す。

 島田さんは「鹿児島のおいしい肉を食べ、ファンになってもらいたい」と力を込める。

■変わる嗜好

 動画で紹介していたのが、米沢牛と鹿児島黒牛の食べ比べを楽しめるすき焼きセットだ。

 米沢牛はサシ(脂肪交雑)がたっぷり入ったサーロイン、鹿児島黒牛は赤身中心のモモ肉。知名度でも米沢牛が圧倒的に勝るが、客の支持を集めたのは鹿児島黒牛のモモ肉だった。

 島田さんは「米沢牛はおいしいけど、脂っこくて箸が進まないと言われた」と苦笑いする。

 昨年8月に鹿児島黒牛と熊本あか牛のサーロインステーキの食べ比べセットを販売した際も、やはりサシの少ないあか牛が人気を集めた。

 店頭の売れ筋は以前なら霜降りのロースやヒレが定番だったが、ここ数年はウデ肉、モモ肉を求める客が増えた。「高齢化や健康志向の高まりから、赤身が好まれる傾向は強まっている」と語る。

 南日本新聞が3月、消費者千人を対象に実施したインターネット調査でも、霜降り肉より赤身肉を好む人が多く、牛肉の嗜好(しこう)は確実に変わってきているようだ。

■あきらめ

 好みの変化とは裏腹に、生産現場のサシ重視路線は変わっていない。より強化されたと言った方が的を射ている。

 5段階で評価される肉質は、サシが多いほど上位に位置づけられる。グルメ番組でよく見聞きする「A5等級」は最上位にあたる。このA5の生産が激増しているのだ。

 10年前は全体の1割強にすぎなかったが、今は5割に迫る。高値で取引されるA5を目指し、牛の改良が急速に進んだためだ。その結果、主流だった格下のA3はシェアが9%まで減り、卸業者の間で奪い合いになる事態が生じている。

 「飲食店などの取引先が求めるのは適度なサシが入り、価格も手頃なA3。だが、ほとんど市場に出てこない。今扱うのはA4が中心で、A5も仕入れざるを得なくなっている」

 島田さんはあきらめにも似た表情でつぶやいた。

(連載【翔べ和牛 第3部 A5神話】より)

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