これからの生徒指導について講演する高橋典久文科省生徒指導調査官=鹿児島市のかごしま県民交流センター
文部科学省は昨年、教員用の手引書「生徒指導提要」を12年ぶりに改訂した。8月、国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターの高橋典久総括研究官が鹿児島市で講演し、改訂のポイントと狙いを解説。学校関係者へ「『させる指導』から『支える指導』への転換が必要」と呼びかけた。要旨を紹介する。
改訂版の提要では、個性の捉え方を改めた。2012年に初めて作成された平成版は「個性の伸長を目指す」とうたっていたが、今回「個性の発見と可能性の伸長」となった。多様性を認め合う社会の、担い手を育てるという観点では、個性を長所としてだけではなく、もっと幅広く捉えなければならない。
よく「個性を大切に」と言われるが、人との違いを隠して、びくびくしている子どもは多い。そのストレスがたまれば不登校にもつながる。いじめでは、自分とは異なる、相手の“個性”を攻撃する。弱い部分も含めて個性と捉え、多様性として認め合うことが大切だ。
従来の生徒指導は「させる」指導になっていた。学校が荒れていた頃は、問題行動などで逸脱する子どもを修正することが求められた。これからは、子どもたち自身のより良くなろうとする力を「支える」指導でなければならない。
不登校は増え続けており、未然防止に力を入れないと厳しい。昔のような「学校には行くのが当たり前」という考えは薄まっている。子どもにとって魅力のある学校とは何か、問い直す姿勢が必要だ。いじめも、被害者を守るだけでは減らない。いじめをしないよう人権意識を高め、多様性を理解し、共生社会の一員となる市民性を育むことだ。
そういった教育の基盤となるのが「発達支持的指導」だ。特別なものではなく日常的なあいさつや声かけ、励ましや称賛など、温かく向き合う姿勢の積み重ねが、子どもたちの成長の支えになる。
生徒指導には四つの視点が重要。(1)一人の人間として大切にされているという自己存在感への配慮(2)共感的な人間関係の育成(3)自己決定の場の提供(4)安心安全な風土の醸成-だ。全ての教育活動の中に生徒指導があり、この視点が欠かせない。
授業も教科を教えるだけでなく、生徒指導の観点で捉え直すことが求められている。子どもが自分の意見を表明できる場を提供し否定しない、話し合いで共感的に友達に接する-など四つの視点を踏まえれば「分かる授業」になり、教室は居心地の良い場所となる。
学校現場は日々増え続ける問題の解決に追われている。「チーム学校」として取り組めているか。担任一人で抱え込まずに分担すれば、結果的に子どもとの関わりが濃密になる。またカウンセラーのように学校外の専門家と一緒に考えることで、子どもを理解する視点や支援方法の手札が増える。
専門家と教員がパートナーとして関係を築き、「子どもの危機は社会の問題」という共通認識を持ってほしい。
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講演は8月29日、県教育委員会がスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどを対象に、鹿児島市のかごしま県民交流センターで開いた研修会であった。
〈経歴〉たかはし・のりひさ 1968年、岡山県出身。岡山大卒。小学校教員や岡山県教委を経て2019年から岡山大教職大学院に准教授として出向。22年から現職。