点字になっている「PLAY」の文字を触って確かめる親子=出水市のツル博物館クレインパークいずみ
障害の有無や年齢にかかわらず誰でも楽しめるように工夫された「インクルーシブ遊具」が、鹿児島県内に登場している。持続可能な開発目標(SDGs)の普及を背景に全国的に注目されている。障害児の親からは従来、遊び場が限られてきたとの声があり、専門家は、遊具に限らず利用者の移動や公園全体の使いやすさへの目配りを呼びかける。
出水市ツル博物館クレインパークいずみの広場に、点字に触れて遊ぶ親子の姿があった。遊具中央「PLAY」の文字盤は突起が付いており、同じ英字を表す点字になっている。裏側は点字のアルファベット一覧表で「Lはどこ?」と文字探しに熱中していた。
市内初のインクルーシブ遊具で、車いすから乗り移りしやすい低めの段差や音の鳴る仕掛けがある。「インクルーシブ」は、「全てを含んでいる」「排除しない」といった意味。規格があるわけではなく、障害などに配慮した構造の遊具を指す。
市によると、より多くの子どもにクレインパークに親しんでもらおうと2023年に設置した。市内にある出水特別支援学校の児童生徒が訪れることもある。椎木伸一市長は「人権を大切に、お互いを尊重できる町づくりを進めたい」と話す。
南さつま市の朝日公園は、国のモデル事業に選ばれ、多様な人が利用可能な設計を指す「ユニバーサルデザイン」化を進める。住宅地にある約9000平方メートルの公園。車いすで通れるスロープ付きの複合遊具や背もたれがあるブランコなどが来年度にかけて整備される。
改修前には、近隣住民の声を聞くワークショップを開いた。幼児の保護者や高齢者施設の管理者、障害福祉従事者らが集まり、「インクルーシブ」の考え方を学び、意見交換した。高良昭一都市整備課長は「地域のみんなが気軽に来られる公園が理想。子どもにたくさん外で遊んでほしい」と話した。
国モデル事業の有識者委員会の一員である兵庫県立大大学院の美濃伸之教授によると、遊具の変化はここ数年で起きた。2020年に東京都が「だれもが遊べる児童遊具広場」として整備した公園が注目を集めたことや、誰一人取り残さないという持続可能な開発目標(SDGs)の理念の広がりが影響したと分析する。
肢体不自由の子どもの母親=30代、鹿児島市在住=は「公園には連れて行かないという障害児の親は多い」と現状を説明。行っても人が多くて遊べなかったり、駐車場やトイレが狭くて苦労したりすることがある。「広い場所でそれぞれ特性に合った遊びができる空間が増えてほしい」と期待する。
美濃教授は「インクルーシブな遊具があると、誰でも来てくださいという“ウエルカムメッセージ”になる」と評価。ただ、特別な遊具を置くだけで公園の完成ではない。トイレや駐車場へのアクセスの配慮、使い方に関する利用者同士の対話も重要とし「遊具ありきで考えず、各公園の特長も生かしてほしい」と助言した。