中学に入るとあらゆる面でレベルアップ。カバンも、ヘルメットも、制服も。でも髪の毛は…(連載 サンシャイン池崎の「イケザキクエスト第12話」)

2024/03/30 12:00
丸刈り…それは、青春の一コマ
丸刈り…それは、青春の一コマ
 僕は鹿屋小学校を卒業して、新たな冒険の地、鹿屋中学校に入学した。卒業式の帰り道、友達と卒業証書が入っている筒を勢いよく引き抜き、誰が一番大きく、「ポンッ!」と音を鳴らせるかという、謎の勝負をしたのをよく覚えてる。

 中学校に入ると親から支給される装備が変わる。重いランドセルは、学校指定の薄茶の斜め掛けカバンになり、すばやさがアップ。通学は徒歩から自転車になったため、ヘルメットも装備、防御力アップ。そして小学校のときは短パンだった制服は、大人っぽい長ズボンの学ランになり、みりょくアップ。あらゆる面で僕はレベルアップした。

 いざ中学校入学式当日。学ランに袖を通し、カチッとヘルメットを装着。自転車でさっそうと登校する。通学路で小学校の前を通り過ぎる。すれ違う小学生がやたらと幼く見えた。中学校の校舎が見えてきた。鹿屋中学校は坂を上ったところにあった。なかなか急な坂なので、ほとんどの生徒が自転車を降りて押して登校するが、レベルアップして気持ちが大きくなっている僕は違った。

 「初日になめられるわけにはいかない。全て立ちこぎで上り切ってやる」

 坂が急なため、自転車を右に左に蛇行させながら少しずつ坂道を上る。歩きの生徒に次々と抜かれていく。

 「絶対に押した方が楽だ」

 でもここで降りたら負けだ。自分との勝負。はあ…はあ…。息を切らせ、汗だくになりながら、なんとか少しずつペダルを踏み込む。額から垂れてきた汗が目に入り、視界がかすむ。太ももはパンパンで今にも爆発しそうだ。限界は近い。頼む俺の太もも、もう少し力を貸してくれ! もう少しだ…もう少し……よし! やった、よくやった俺!

 入学式の体育館に着いたのは僕が最後だった。自分に勝って、新入生全員に負けていた。

 体育館の一番後ろの両扉は開けっぱなしになっていて、僕より先に並んでいる新入生の後ろ姿が見えた。魔界か? その光景に僕は驚愕(きょうがく)した。男子生徒が全員もれなく坊主なのだ。

 当時の鹿屋中学校は、校則で男子は坊主という決まりだった。大量の一休さん。みんな合わせたら「百休さん」。ボウリング場の球だったら選び放題。マリモ大量発生。ゲームの「ぷよぷよ」だったら即全消し。いろんな言葉が頭をよぎる。校長先生の話が始まった。

 「皆さん入学おめでとうございます。3年間という、小学校よりも短い期間ですが、たくさんの思い出を作ってください」

 百休さんたちは思った。短いのは俺たちの髪の毛な。

つづく

鹿児島のニュース(最新15件) >

日間ランキング >