客の詐欺被害を防ぐため、ATMに張られた啓発ポスター=9月30日、鹿児島市の金融機関
鹿児島県内で、うその電話や交流サイト(SNS)のやりとりを通じて金をだまし取られる事案が増えている。最近では複数人で共謀し、県外から数百万円の金をだまし取った犯行が複数発覚した。中でも「SNS型投資・ロマンス詐欺」は1~8月だけで117件あり、被害総額は10億9000万円に上る。県警はホームページに件数の推移やよくある誘い文句、注意点を毎月公表。「見知らぬ人からお金の話をされたら、まずは警察や周囲の人に相談して。県警からの情報も役立ててほしい」と呼びかけている。
県警によると、うそ電話詐欺は今年1~8月に96件(前年同期比29件増)発生し、被害総額は1億6000万円(同98万円増)になる。特に直近3年は増加傾向にあり、巧妙なアプローチに注意が必要としている。
例えば、警察官になりすました詐欺事案がある。実際の手口は次の通りだ。
7~8月、県内の70代女性に警察官を名乗る男から電話があった。「あなたの口座が悪用されている。紙幣番号を調べる必要があるため現金を送ってほしい」という内容。女性は男の指示通り、東京都へ現金500万円を宅配便で送った。
翌日、女性は再び数百万円を引き出そうと、鹿児島市の金融機関に1人で訪問した。不審に思った女性職員が使い道を尋ねると「答えられない」などと話したため、警察署に通報した。
経緯を聞く中で、女性がすでに送金していたことが判明。県警は、送付先に捜査員が先回りする「だまされたふり作戦」を決行し、都内アパートで現金を受け取った男を取り押さえた。
送金を未然に防いだ女性職員は「女性は慌てる様子もなく、驚くほど冷静だった。今思うと、完全に電話相手を信じ込んでいたのだと思う」と振り返る。
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SNSで投資話を持ちかけたり、恋愛感情を抱かせたりして金を詐取する「SNS型投資・ロマンス詐欺」も増えている。
県警は1~8月に117件を把握。被害総額は10億9000万円に上る。SNS型詐欺は昨年まで、うそ電話詐欺と合わせて集計していたが、増加傾向を受け今年から分けて集計している。
投資詐欺には、投資家や著名人を語り、LINE(ライン)グループなどに勧誘、偽の「投資アプリ」に登録させる手口がある。金を送るとアプリ上で「利益」が出たように表示され、だます側は信用させようと、被害者の口座へ少額の「見せ金」を振り込むケースもある。
ロマンス詐欺は9月に県内で初めて摘発された。自称「イラク軍人の女」が、SNSで親しくなった県内の60代女性から現金310万円をだまし取った事件で、実際は何者かが日本で暮らそうとするイラク軍人の女を装っていた。手口は、ダイレクトメッセージで女性に接触し「イラク政府からの賞金と軍事書類を送る」とLINEで送信。その後、別のアカウントで配送業者を名乗り、「税関を通すために預託金が必要」とうそをつき送金させたとされる。
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県警組織犯罪対策課は今年9月までに、うそ電話・SNS両詐欺に関与したとして9人逮捕したと発表した。いずれも受け子や回収役などの末端で、構成員の実態は判明していない。SNSを追跡し、携帯電話を解析するなどして捜査を進めている。
直接会わず文字情報だけでやりとりするSNS型詐欺は犯行を特定しにくい。詐欺グループの拠点も広範囲に及ぶため、捜査を難しくしている。県警組織犯罪対策課の重田克久理事官は「構成員同士もSNSで知り合うなど匿名性が高い。金の送付先を架空の口座に設定している場合もあり、足がつかないように対策をしている」と明かす。
県警によると、SNS型詐欺が増えている背景に、投資への関心の高まりや中高年へのSNS普及、人工知能(AI)によるなりすましの巧妙化などがある。生活安全企画課の後迫克章理事官は「手口は年々進化している。被害防止へ地道な啓発を続けていく」と話している。
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SNS型投資・ロマンス詐欺 交流サイト(SNS)で投資話を持ちかけたり、親近感や恋愛感情を抱かせたりして金銭をだまし取る詐欺。投資詐欺は、SNS上で投資家や著名人になりすまして「必ずもうかる」などと言い、アプリを通じて外貨や暗号資産への投資に勧誘。指定口座への入金などを指示する。ロマンス詐欺は、マッチングアプリなどを介して交際や結婚を申し込み、関係継続を名目に金を要求したり、投資に誘導したりする。両詐欺は、相手を信頼させた上で長期間繰り返し金をだまし取るため、うそ電話詐欺に比べ被害額が大きいのが特徴。