待望の特別支援学校がついに…峠越え片道1時間超のバス通学から解放される。「暮らす地域で学べる意義」。知事が新設決断した背景

2024/11/12 18:03
母親(右)に手を引かれ、出水特別支援学校への通学バスに乗る児童=湧水町のタイヨー栗野店
母親(右)に手を引かれ、出水特別支援学校への通学バスに乗る児童=湧水町のタイヨー栗野店
 発達障害の子どもたちへの指導や支援を含めた特別支援教育がスタートして今年で18年目となる。学校関係者や保護者らに広く知られるようになり、特別支援学級などで学ぶ児童生徒は急増。教員不足や学びの質といった課題も見えてきた。鹿児島県内の現状を報告する。(シリーズ・かわる学びや@鹿児島~特別支援教育の今=10回続きの⑦より)

 10月初旬の朝、霧が立ちこめる湧水町のスーパー駐車場に、車が次々と止まり始めた。大型バスが到着すると、車から降りた子どもたちが乗り込む。出水市の特別支援学校(特支)まで1時間超の道のりだ。

 峠を越えるルートは、大雨による土砂崩れや降雪で通行止めになることもある。子どもを見送った母親たちは「いつか災害に巻き込まれたりはしないか不安」と漏らす。

 伊佐市と湧水町から出水特支に通う児童生徒は2024年5月時点で59人。さつま町なども含めると90人に上る。負担軽減や地域で学べる環境づくりを求め、伊佐の保護者は16年から特支設置を要望。21年には湧水の保護者も加わった。



 特別支援学級だけでなく、特支の児童生徒も増えている。近年は比較的軽い障害の子が、より手厚い支援を求めて入学を希望するケースもあるという。鹿児島県教育委員会によると、県立特支15校の通学生は5月1日時点で計2700人。1999年の約2倍だ。学校別では霧島市の牧之原が2倍、出水は開校した2000年の2.7倍に増えている。

 牧之原特支は図書室を教室に転用するなど教室不足が深刻化。志布志市や姶良市から1時間以上かけて通う子もおり、伊佐・湧水地区同様、地元の特支を求める声が上がっていた。

 これらの課題解消に向け県教委は22年度、有識者らによる検討委員会を設置。23年2月には曽於地区、伊佐・湧水地区、姶良地区の順で、新たな特支か分校・分教室の設置を検討することが望ましいと提言した。

 塩田康一県知事は今年2月、志布志市の伊崎田学園内に特支を開設することを表明。9月には、伊佐市の旧大口南中学内にも設置する意向を明らかにした。



 「本当にありがたい」。「志布志市に特支をつくる会」の有馬りゑ代表(41)=同市=は、念願だった地元への特支開設を喜ぶ。

 ダウン症の長女が牧之原の小学部3年に在籍。バスで約1時間半かけて通うため、入学時はトイレに備えてオムツを履かせていた。学校で体調が悪くなれば、パートを休んで迎えに行く。伊崎田なら自宅から車で約10分で駆けつけられる。

 「伊佐市に新しい特支をつくる会」の大谷暁子代表(50)=同市=は「見える場所に学校がある意義は大きい」と強調する。3月まで長男(19)が出水特支に在籍。長距離通学で、地元の人と触れ合う機会が薄れてしまったと振り返る。

 「卒業後も地域で生きていくのに、学校が遠いと存在を認識してもらえなくなる」。29年春に開校する特支が、地域との交流の場になることを期待している。 

 ◇特別支援学校とは 視覚障害や聴覚障害、比較的程度が重い知的障害のほか、肢体不自由、病弱・身体虚弱の児童生徒が対象。特別支援学級が1学級8人を標準とするのに対し、特別支援学校(特支)は小中学部6人、高等部8人、重複障害学級3人。鹿児島県立は現在15校あり、最初の開校は1948年の鹿児島盲学校と鹿児島聾学校。国は2007年の学校教育法改正で盲、聾、養護学校を「特支」に一本化。県内では保護者らによる校名変更への要望を受け、23年4月に盲、聾を除く養護学校を特支とした。このほか鹿児島大学付属特支がある。

鹿児島のニュース(最新15件) >

日間ランキング >