インクルーシブな地域づくりを目指して開かれた全国障害者問題研究会九州ブロックの集会=9月、鹿児島市の鹿児島大
発達障害の子どもたちへの指導や支援を含めた特別支援教育がスタートして今年で18年目となる。学校関係者や保護者らに広く知られるようになり、特別支援学級などで学ぶ児童生徒は急増。教員不足や学びの質といった課題も見えてきた。鹿児島県内の現状を報告する。(シリーズ・かわる学びや@鹿児島~特別支援教育の今=10回続きの⑩より)
鹿児島市の小学5年男児が、特別支援学校(特支)から近くの小学校へ移ったのは昨年の春。兄や姉のように「地元の友だちがほしい」と望んだからだった。軽度の知的障害と自閉症スペクトラム障害があり、今は特別支援学級(支援級)に在籍する。
転学後、友人には恵まれたが、勉強に追いつけずに落ち込むことが増えた。地元中学へ進学を望んでいるが、学校側からは暗に特支を勧められるという。
母親(49)は「将来、自分の力で困難を乗り越えられるよう、さまざまな人が暮らす地域で育ってほしい」と願う。ただ、特支ほど手厚いサポートは得られない。「地元の学校に特支の場があったらいいのに。障害のある子もない子も共に学ぶインクルーシブ教育は夢のよう」とため息は深い。
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国連の障害者権利条約は、インクルーシブ教育を原則とする。日本も2014年に批准し、文部科学省はインクルーシブ教育システムの構築推進を掲げるが、現実は特支や支援級に通う子どもが増え続けている。22年に初めて日本を審査した国連からは、障害児を分離した特別支援教育の中止が要請された。
神戸大学大学院の赤木和重教授(49)=発達心理学=は、支援級急増の背景として「通常学級の在り方に無理が生じているのでは」と分析する。「みんな一緒」という同調圧力や、能力主義に対応できない子どもたちが通常学級から排除されていることを案じる。
現場にはまず、スムーズな学級運営のために同じ行動を求める「学級規律」の緩和を提案。「さまざまな子が過ごしやすくなるよう、小さなトラブルをすぐに問題にしないことも大切。子どもを信頼して成長を見守って」と呼びかける。
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「障害のある子の教育を改革するには、特別支援だけでなく学校教育全体の改革を」。9月下旬、鹿児島市であった全国障害者問題研究会(全障研)の九州地区集会。講演した全障研の薗部英夫副委員長(68)は、インクルーシブな学校づくりには、通常学級の少人数化や全校的な支援体制の確立が不可欠だと訴えた。
主催した全障研鹿児島支部の西園健三支部長(63)は、一律に通常学級へ戻せばいいわけではないとも強調する。「障害のある子を学びから排除してはならない。一人一人に合った環境を整えるため、試行錯誤を続けなければ」と語った。
特別支援に加え、急増する不登校や深刻ないじめ、教員不足と多忙化-。教育現場が抱える課題は重い。誰も取り残されない学校とは。その在り方を問い直す時期が来ている。
=おわり=
◇障害者権利条約とは 障害者の権利を守り、差別を禁止する。2006年に国連総会で採択され、08年に発効した。国連の障害者権利委員会は締約国から政策報告を受け、定期的に審査、勧告を行う。日本政府は第5次障害者基本計画(23~27年度)で「障害の有無によって分け隔てられることなく、可能な限り共に教育を受けられる仕組みの整備を進める」としつつ、特別支援学校や特別支援学級(支援級)を設ける方針は維持した。新たな対策として、全ての新規採用教員が10年目までに支援級などでの指導を複数年経験するとした。